[今語りたいフットボーラー! 5]ありあまる元気でゴールを重ねる原口 ブンデスでも代表でも指揮官を魅了する理由とは

ダルダイの就任を転機にヘルタでの存在感が増す

ダルダイの就任を転機にヘルタでの存在感が増す

第27節インゴルシュタット戦では初の マン・オブ・ザ・マッチを獲得 photo/Getty Images

ヘルタ・ベルリンはいわゆるエレベーター・クラブで、2010-11シーズン(2部)以降、1部と2部を行ったり来たりしている。原口元気が加入した14-15シーズンは1部で戦う2シーズン目を迎えていた。

チームを率いていたのはヨス・ルフカイで、1部に定着するべく新たな試みをはじめたシーズンだった。ルフカイは堅守をベースにカウンターでゴールを目指すスタイルを指向していたが、14-15シーズンはパスをつないで攻撃をビルドアップすることにトライしていた。ところが、これがうまくいかなかった。

チーム全体の意識が攻撃に傾いたことで守備のバランスが崩れて失点を重ね、第19節を終えた時点で17位と降格圏内にいた。原口もサイドアタッカーとして試合には出場していたが、必死にボールを追いかける日々が続き、本来の特徴を発揮できているとはいえなかった。
状況が好転したのはパル・ダルダイが監督に就任してからだった。ダルダイはもう一度チームに守備の意識を植えつけ、短期間で安定感を取り戻した。その初期段階において原口は試合に出場できない時期があったものの、戦力外と見られていたわけではない。

ダルダイは日本にいたころにどんなプレイをしていたかをDVDで確認し、その能力を高く評価していた。このころのダルダイは、「たまに日本にいたころのDVDを本人に見せて、『ゲンキ、このように決めてくれ』と話している」という言葉を残している。また、スポーツディレクターのミヒャエル・プレーツとともに、原口と一緒に朝食を摂って話し合ったこともあったという。

こうした経緯でヘルタ・ベルリンのなかで原口の存在感が徐々に増すと、攻撃面で持ち味を発揮するようになり、第25節シャルケ戦ではブンデス初ゴールをゲット。さらに、第30節バイエルン戦では前半を右サイド、後半は左サイドでプレイし、攻守両面でスター軍団に臆することなく勝負を挑み、0-1で試合には負けたが、原口自身は多くの場面で勝利することでポテンシャルの高さを証明した。

原口=キレキレのドリブルというイメージがあるが、守備においてもチームのなかでしっかりと役割を果たしている。高い位置で周囲と連係して効果的なプレスをかけ、激しいボディコンタクトでボールを奪う。バイエルン戦において左右両サイドでプレイしたのは「守備に関する指示を出しやすくするため、ゲンキが常に私の近くに来るように起用した」(ダルダイ)という理由によるものだった。

役割を遂行しつつ特徴も発揮できる

役割を遂行しつつ特徴も発揮できる

シリア戦ではまさかのボランチで起用され1ゴールをマーク photo/Getty Images

目指す方向性をしっかりと示し、チームが機能するためにはひとりひとりの選手がどんなプレイをしなければならないか。規律、戦術を重んじるダルダイの就任によって、ヘルタ・ベルリンは試合を重ねるごとに統率の取れた安定感のあるチームへと仕上がっていった。今季は常に上位をキープし、第30節を終えて来季UCLの出場権を得られる4位となっている。好調なチームのなかで、原口はポジションを獲得し、激しい守備、ボールを奪ってからの素早い縦への仕掛けで攻撃のアクセントになっており、2得点3アシストという数字以上の存在感を放っている。

ダルダイと同じく、日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチも戦術理解度が高く、チームのためにプレイできる原口の能力を高く評価している。29日のロシアW杯アジア2次予選シリア戦での原口は指揮官の要望に見事に応えて見せた。前半に1点をリードした日本代表だったが、その後はシリアにカウンターを受けて押し込まれる時間があった。原口は58分に負傷した山口蛍に変わって交代出場したが、与えられたポジションはボランチだった。

「原口が中盤で起用された理由をメディアのみなさんは理解できるでしょうか? 彼のプレイスタイルがあの状況で私が求める役割に合っていたということです。実際、彼はオフェンス面でチームにかなりのことをもたらしてくれました」

試合後、こう語ったのはハリルホジッチ監督である。中盤で献身的にボールを追いかけ、やや前がかりになった相手DFの裏のスペースを突き、マイボールになると素早く縦へ飛び出し、カウンターからゴールを狙う。原口が入ったあとの日本代表はショートカウンターの精度、スピードが増し、次々にゴールをゲット。原口自身の1点を含む4点を追加し、5-0で快勝した。

現在の原口は、ヘルタ・ベルリンのダルダイ、日本代表のハリルホジッチの両監督から高い評価と厚い信頼を得て、試合出場を重ねている。与えられた役割を遂行しつつ、とにかく勝利、ゴールを目指し、粘り強い、泥臭いプレイもできる。単純にチームプレイに徹するだけではない原口のスタイルは、指揮官にとって魅力的なのだ。

文/飯塚 健司

theWORLD173号 2016年4月23日配信の記事より転載

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