[今、一番面白いチームはレスターだ! 2]一撃必殺! データが証明するレスターが止まらないワケ

堅守速攻を十分に生かす速さ、テクニック、奪取率

堅守速攻を十分に生かす速さ、テクニック、奪取率

しぶとく勝利を重ねるチーム。本当に優勝が見えてきた photo/Getty Images

プレミアリーグ開幕30試合を終えて勝ち点63を獲得し、首位に立つレスター。昨季の30試合終了時には断トツの最下位にいたチームが、まさか優勝争いのトップに躍り出るとは地元ファンでも想像していなかったに違いない。

英国紙『デイリーメール』によると、昨年末時点での選手人件費は、プレミアで下から数えて3番目の約44億円。マンチェスターの両雄はいずれも170億円を超えており、トッテナム、アーセナル、チェルシーのロンドン勢も、レスターの倍以上の資金を選手に投じている。資金力が成績に直結する傾向が強い欧州サッカー界においてその差は圧倒的であり、だからこそ、レスターの躍進は「奇跡」と呼ばれている。

もっとも、彼らがピッチ上で見せるサッカーは、奇跡や革新とは無縁の“普通”の堅守速攻である。4-4-2をベースにチームの重心を低く設定して、ボールを奪ったらできるだけ早く敵陣にボールを運んでゴールを狙う。それは教科書通りのカウンターだ。年々パスサッカーを志向するチームが増えるプレミアにおいては、むしろ「古い戦術」に当たる。

データ分析サイト『WhoScored.com』によれば、1試合平均のボール支配率は44.7%でリーグワースト3位。パス成功率に至っては70.1%で最下位だ。それでもリーグトップタイの得点数(53)を誇り、首位を走っている。それはひとえに、カウンターを成立させるための個のタレントが存在し、チームとしても彼らを生かす仕組みが完璧に出来上がっているからである。

個のタレントについて、攻撃面ではジェイミー・バーディーとリヤド・マフレズ、守備面ではエンゴロ・カンテの存在が大きいことは明らかだ。今季プレミア19ゴールで得点ランキングのトップタイに立つバーディー、同15ゴールを奪うマフレズは、2人だけでチーム総得点のうち64%に当たるゴール数を稼いでいる。さらにマフレズは今季プレミアで唯一、ゴール(15)とアシスト(11)の両項目で2桁を記録している。バーディーはスピード、マフレズはテクニックを持ち味とし、補完性が高いコンビであることも、高い攻撃力を生む要因となっていることは見逃せない。

そんな2人が表の主役なら、影の主役となっているのが、今季がプレミア1年目のカンテだ。身長169cmと小柄ながら、守備能力が恐ろしく高い。先の『WhoScored.com』によれば、今季のレスターは、1試合平均タックル数(22.8)がリヴァプール(23.6)に次ぐ2位、インターセプト数(21.9)が1位を記録しているが、両項目でチームトップの成績を叩き出しているのが、カンテである。ちなみに、プレミア全選手の中でも、それぞれ2番目に高い数値となっている。なおレスターは、「自らのミスで招いた失点」が今季プレミア最少の1つだけ。安定した守備を発揮できているのは、DF陣の奮闘ぶりに加えて、最終ラインの前でカンテが“防波堤”となって立ちはだかっているからこそ、とも言える。そもそもカウンターで勝ち続けるには、相手の攻撃を跳ね返す高い守備力と少ないチャンスでゴールを奪う攻撃力の両要素が欠かせない。今季のレスターには、その要素を満たすタレントが攻守に揃っていた。とはいえ、いくら優れた選手がいても、チームとして機能しなければ結果はついてこない。ワールドクラスの選手たちが揃っていながら下位に低迷したチェルシーを見れば、それは一目瞭然だ。

超速カウンターの弱者から、強者への変貌を遂げた

超速カウンターの弱者から、強者への変貌を遂げた

一気に前線へとボールを繋ぎ、電光石火でゴールを奪う photo/Getty Images

では、チームとしてのレスターの特徴は何か? ディヴィッド・サンプターという数学者が提唱する、数学を用いてサッカーを分析する手法「Soccermatics」によれば、レスターは「プレミアで最も手数をかけず、ダイレクトにゴールを目指すチーム」だという。

たとえば、相手ゴールに向かって出されるパスの平均距離は9m。これはアーセナルの約2倍でプレミア最長、2位以下のチームよりも2m以上長い。また相手ゴール前までボールを運ぶのに繋ぐパスの平均本数はリーグ最少の4本以下だ。つまり、マイボールになった瞬間、相手の守備陣形が整う前に攻め切ってしまおうという意図が伺える。もちろんそれはカウンターの基本的な考え方だが、守から攻への切り替えが異常に早い“超速カウンター”をチーム全体で徹底しているということだ。

そのためには、選手全員でトランジッションのスピードと縦への意識を共有しておく必要があるが、レスターは今季、スタメン出場した選手がリーグ最少の1 8名。直前の試合から先発メンバーを変更した回数(2 5)もリーグで最も少ない。

できるだけ同じメンバーで戦うことで共通理解を深め、戦術の練度を加速度的に高めてきたと言える。もちろん、ビッグクラブではないレスターには、ローテーションを行うだけの選手層がないという見方もできるかもしれない。だが、1試合平均走行距離はリーグで8番目の108.55km(プレミアリーグ公式参照)と、2位トッテナム(114.22km)と比べてもかなり少なく、無駄な体力を消費せず、効率の良いプレイを実践していることが分かる。

しかし、弱者から強者に変貌を遂げた今では、“対レスター仕様”の戦い方をしてくるチームが増えてきた。相手の方が自陣にこもり、ボールを持たされることが多くなったのだ。直近のニューカッスル戦を含めて、ボール支配率はここ4試合連続で5 0%を上回っている。こうなると十八番の速攻を使う回数は限られる。ここにきて際どい勝利が増えているのも、それが理由であり、この先は戦い方に柔軟性と工夫を持たせる必要がある。岡崎慎司のオーバーヘッドキックによるゴールほどではないにしても、カウンター以外のゴールパターンをどれだけ増やせるかが、クラブ史上初のプレミア制覇を達成するカギとなるはずだ。

文/北川 紳也

theWORLD172号 2016年3月23日配信の記事より転載

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