[躍進するストライカーたち4]白熱の得点王争い ブンデスの二大エースが止まらない

剛のレヴァンドフスキ 柔のオバメヤン

ここ数年のブンデスリーガは、シーズン前半戦を終えて優勝争いから興味がなくなることが多かった。バイエルンの圧倒的な強さの前に、どのチームも後ろ髪さえつかむことができなかった。しかし、今シーズンは違う。リーグ前半戦を終えて、首位バイエルンと2位ドルトムントの勝点差は8となっている。絶対王者であるバイエルンを止めるのは、やはりドルトムントしかいないようだ。

両雄のエースが繰り広げる得点王争いも実に面白い。バイエルンのロベルト・レヴァンドフスキが15点、ドルトムントのピエール・エメリク・オバメヤンが18点でこちらはドルトムントのエースが上位にいる。とはいえ、3点差はレヴァンドフスキにとって1試合で引っ繰り返せる数字だ。なにしろ、第6節のヴォルフスブルク戦では9分間で5点を奪う偉業を達成している。

この試合を振り返ると、前半を終えてバイエルンは1点のビハインドを背負っていた。レヴァンドフスキはベンチスタートで、ピッチに立ったのは後半開始からだった。すると、51分にまず同点弾をゲット。以降、52分、55分、57分、60分に立て続けにゴールを奪い、最速ハットトリック、最速4得点、最速5得点、途中交代で5得点という4つのギネス記録をアッという間に達成してみせた。
レヴァンドフスキはゴール前での1タッチや2タッチでのプレイがうまく、相手DFに一瞬の動きで競り勝ち、身体を投げ出してフィニッシュする泥臭さがある。強い身体を持ち、接触プレイでバランスを崩すことが少なく、良い態勢でシュートを打つことが多い。「自分でシュートを決める」というわがままな一面もあり、オバメヤンがここまで66本のシュートを放っているのに対して、レヴァンドフスキは88本となっている。ということは、シュート決定率では18%対28%で差をつけられているが、1試合で訪れるシュートチャンスはレヴァンドフスキのほうが多いということだ。シュート決定率がもう少しオバメヤンに近付くだけで、両者の得点数は逆転するだろう。

だからこそ、オバメヤンは1試合でのシュート数をもっと増やしたいところだ。30m走ならウサイン・ボルト(100m世界記録保持者)よりも速いと言われるスピードスターであるオバメヤンは、相手DFの裏へ素早く走り込み、後方からのタテパス、両サイドからのクロスにダイレクトで合わせるのが非常にうまい。

一方で、ドルトムントの変幻自在なパスサッカーのなかに入り、自分でフィニッシュしないでチームメイトにラストパスを出すことも多い。これはアシスト数に表われていて、オバメヤンとレヴァンドフスキを比べると4対1となっている。ときには強引に、わがままにプレイしてシュート数を増やしつつ、なおかつ現状の決定率をキープできたなら、オバメヤンが自身初のブンデスリーガ得点王に輝く可能性が高い。

復活を果たしたチチャリート 武藤は監督の信頼を得ている

今シーズンからブンデスリーガに参戦した2人のストライカーも、ここまで高い評価を得ている。レヴァークーゼンのハビエル・エルナンデス(以下チチャリート)と、マインツの武藤嘉紀だ。マンチェスター・ユナイテッドから移籍加入したチチャリートは第4節から出場し、14試合で11点とゴールを量産している。武藤も17試合で7得点2アシストとFWとしての役割を果たしている。

チチャリートは短期間でレヴァークーゼンのタテに速いサッカーに馴染み、「ボールを持ってからシュートまでの動作が速い」という持ち味をいかんなく発揮している。天性のストライカーと呼べるタイプで、ゴール前のポジション取りが良く、絶妙なタイミングと場所でボールを受け、身体に染み込んだスムーズな動きでフィニッシュしてみせる。

よほどレヴァークーゼンが合っていたのか、リーグ戦だけでなく、ドイツ杯、CLでもチチャリートは好調で、公式戦24試合で19点という恐ろしい数字を残している。後半戦次第では得点王争いにもからんできそうだが、この活躍を他のビッグクラブが見逃すはずがない。英国メディア『ミラー』はチェルシーが獲得を狙っているとし、スペインメディア『ドン・バロン』はアーセナルが1月に獲得する可能性があると報道している。

もちろん、レヴァークーゼンにとっても重要な得点源で、簡単には放出できない選手だ。昨季プレイしたレアル・マドリードでは輝けなかったが、チチャリートはレヴァークーゼンで完全復活を果たしている。このまま残留するのか、プレミアに戻るのか──。冬の移籍市場では、周辺が騒がしくなりそうだ。

武藤も自身の持ち味である献身的な守備、豊富な運動量でマインツの前線を活性化している。17試合でシュート数33本とオバメヤンやレヴァンドフスキと比べるとシュート数が少ないが、マインツの攻撃力を考えるとこれは仕方ない。むしろ、レヴァンドフスキを上回る21%という決定率を残しており、チャンスをしっかりとゴールへつなげているほうだ。

シュミット監督の信頼も厚く、高さのあるフロリアン・ニーダーレヒナーやパワー&スピードがあるジョン・コルドバとのポジション争いに勝利し、常に先発している。また、背番号10を背負うユヌス・マッリとは相性がよく、シュミット監督が命名した「M&M’s」というコンビ名が確実に浸透している。

ただ、各チームの対応は早く、徐々に武藤へのマークが厳しくなっている。そうしたなか、現在の7点からどこまで得点数を伸ばせるか注目される。過去のブンデスリーガでの日本人最高得点は、岡崎慎司が2013年にマインツ加入1年目に記録した15点となっている。

文/飯塚 健司

theWORLD169号 2015年12月23日配信の記事より転載

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