名良橋晃の定点観測♯15「競争なくして成長なし。現状の日本代表では最終予選へ不安あり」

南野は先発させてほしかった。遠藤には対応力が必要だった

ロシアW杯のアジア2次予選が行なわれ、日本代表がシンガポール、カンボジアとアウェイで戦いました。シンガポール戦では清武弘嗣、金崎夢生、柏木陽介といった新しい選手たちが自分の持っている力を発揮しました。金崎は先制点を奪うなど、結果も残しました。90分を通してみると苦戦する時間帯もありましたが、チームとして彼らの持ち味をうまく引き出しながら戦っていたと思います。日本代表のレベルアップのためには、やはり“競争”が必要です。新しい選手の活躍はチームを活性化します。

だからこそ、カンボジア戦では不満が残りました。2列目の右サイドに原口元気を起用しましたが、彼はW杯予選ですでに先発経験があり、特徴もわかっています。ここは思い切って出場経験が浅い南野拓実を起用してほしかったです。

初出場したイラン戦は88分からの出場で、ボールに触ることなく終わりました。自分の力を発揮するには、あまりにも短い出場時間です。特徴を見極めるためにも、今回の連戦ではどちらかの試合で先発させるべきではなかったでしょうか。カンボジア戦での南野は86分から出場し、ドリブル突破を仕掛けてシュートを放つ場面がありました。ピッチに立っている時間がもう少し長ければ、さらに特徴を発揮できたかもしれません。
また、前半にダブルボランチを務めた山口蛍、遠藤航はどちらも守備的な選手です。この2人がコンビを組んだときに、攻撃時にどんなパフォーマンスを発揮するかをハリルホジッチ監督は見たかったのだと思います。結果は引いて守る相手ということで中盤にスペースがあり、2人とも前に突っ込み過ぎてプレイしづらくなっていました。後半から出場した柏木は逆にこのスペースをうまく使ってボールを持ち、正確なタテパスを出していました。前半から2人のうちどちらかがこのプレイができていたら良かったのですが、両名と柏木ではプレイスタイルが違うのも事実です。

たとえば、湘南ベルマーレでの遠藤は自分が動きながらパスを受け、さらには動いている相手に早いタイミングでパスを出すサッカーをしています。カンボジア戦では相手が引いていることもあり、日本代表の攻撃陣は足元でボールを受けることを要求していました。長友佑都、藤春廣輝の両SBも前半はリスクのある攻撃参加はあまりしていませんでした。自分の動き、まわりの動きともに普段と違ったことで、遠藤の良さが出ませんでした。

とはいえ、日本代表の選手にはこうした状況にアジャストする能力が求められます。W杯予選初スタメン、アウェイの雰囲気、人工芝など、遠藤にはいろいろやりにくい条件が重なっていたと思います。しかし、これを言い訳にしてはいけません。試合、とくにW杯予選のような場ではなにが起こるかわかりません。日本代表の選手には、あらゆる事柄に柔軟に対応する能力が必要です。

W杯出場を続けるためにも、初心を忘れてはいけない

シンガポール、カンボジアとの連戦では、CBにも不安を覚えました。攻撃を意識するあまり、守備のリスク管理が疎かになり、相手にスペースを与えていました。カウンターを受けて槙野智章がペナルティエリアの少し外でファウルを犯してFKを与えたり、吉田麻也が相手FWのスピードに振り切られ、ゴール前でフィニッシュされてしまう場面がありました。2次予選の相手にこうした場面を作られているのは、今後を考えると非常に不安です。

最終予選で対戦する相手は、より強く、高く、スピードもあります。最終ラインの中央は変えにくいのも事実ですが、調子の良い選手を使うべきだと思います。ここ最近招集している塩谷司、丸山祐市の他にも、昌子源、岩波拓也などJリーグで活躍している選手がいます。日本代表のCBにポジション争いをもたらすためにも、彼らを筆頭にJリーグでプレイするすべてのCBに「代表のレギュラーになる」という強い気持ちで普段からがむしゃらにプレイしてほしいです。競争なくして、成長はないと思います。

これに関連するのですが、ハリルホジッチ監督が日本代表の候補と考えている選手をJFA(日本サッカー協会)に呼び、個別面談をするというニュースを目にしました。私はこれには少し疑問を感じています。日本代表は全選手に可能性がある場所です。このやり方では、JFAに呼ばれた選手は「代表に選ばれているんだ」と勘違いしてしまうかもしれないし、逆に、呼ばれない選手は「可能性はないんだ」と士気が下がってしまうかもしれません。選手だけでなく、メディアも勘違いしてあたかもその選手が常に日本代表であるかのように報道するようになってしまう可能性があります。

あくまでも、日本代表にはそのときに調子の良い選手を呼ぶべきだと思います。鹿島アントラーズで好調の金崎は今遠征でギラギラしていて、泥臭さがありました。球際で負けない強いメンタルを発揮していました。こうした選手がチームに入ってくると雰囲気が変わります。やはり、W杯予選のような厳しい勝負の場では、最後はメンタルが大事です。シンガポールやカンボジアのプレイを見ていると、決して技術力は高くないですが、すごく気持ちが入っており、必死に粘って最後の一歩まで足を出していました。

改めて思うのは、初心を忘れてはいけないということです。いまはW杯に出場するのが当たり前になっていますが、日本サッカーもつい数十年前まで予選突破も苦しい時代がありました。危機感を持って臨まないと、いま必死に戦っているシンガポールやカンボジアに追いつかれ、追い越されてしまうかもしれません。実際にユース年代はU-17W杯、U-20W杯に出場できていません。停滞している間に後ろから足音が聞こえてきています。

最終予選で対戦する各国は、いま以上に粘り強いし、力強さがあります。日本サッカーに関わるすべての人たちが現状を正しく把握してそれぞれの仕事に臨まないと、ロシアW杯の出場権を逃すという最悪の事態になりかねないと思っています。

構成:飯塚健司

theWORLD168号 11月23日配信の記事より転載

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