[ユーロ2016予選でわかる欧州新勢力図 4]育成大国オランダの敗退に見る世代交代という難題

まさかの“歴史的敗退”オランダが苦しむ世代交代

オレンジ軍団がまさかの終戦を迎えた。来年フランスで開かれるユーロ2016の予選が先ごろ終了し、オランダはグループAの4位に終わった。自動的に出場権が得られる2位以内はおろか、プレイオフに回れる3位にすら入ることができず、84年大会から7大会続いていた本大会出場を逃した。そんな“歴史的敗退”の原因をひとつに特定することなどできるはずもないが、世界屈指の強豪国が苦しむ様子に世代交代の難しさが透けて見える。どんな伝統国であれ、継続的な強さを維持していくためには円滑な世代交代が不可欠だ。一時代を築いたスター選手がいようと、いつまでも頼っていればたちまち低迷期を迎えてしまう。だからこそ、常に若手を育成し、次への準備を施しておく必要がある。では、オランダが次世代の育成を軽んじていたかというと、決してそんなことはない。

昨年のワールドカップでオランダ代表の指揮を執ったルイ・ファン・ハール前監督にしても、特にDFにおいて積極的に若手を重用した。実際、今回のユーロ予選を戦っていた顔ぶれを見ても、FWメンフィス・デパイ(21歳)をはじめ、MFジョルジニオ・ワイナルドゥム(24歳)、DFビルヒル・ファン・ダイク(24歳)、DFジェフリー・ブルマ(23歳)など、20代前半の選手が数多く主力を担っている。

台頭する若手守備陣の脆さ。国際大会での実績が不足?

世代交代とは、単に才能のある若い選手が出てくればうまく進むというものではないのだろう。例えば、彼ら20代前半の選手たちにはU-17やU-20の年代別ワールドカップでの経験がほとんどない。フランスやスペイン、ドイツなどがそうであるように、A代表で栄光を迎える国には必ずと言っていいほど、その予兆が育成年代に表われるものだ。仮に所属クラブで日常的に高いレベルを経験できるとしても、国の代表として国際舞台で戦うこととではやはり差がある。彼らに年代別代表での成功体験がないことは、若手の台頭が結果に結びつかない一因かもしれない。

また、現在のオランダ代表は若手が台頭する一方で、依然としてMFウェズレイ・スナイデル(31歳)、FWロビン・ファン・ペルシー(32歳)といったベテランに依存している面もある。仮にベテランに頼るにしても、DFやボランチに経験豊かな選手が並び、前線の若手に思い切ってプレイさせるという関係が成立しているならば問題はないのかもしれないが、オランダの場合はむしろ逆。安定感をもたらすべきディフェンスラインの選手が経験不足なのではチーム全体を落ち着かせることはできない。

それどころか、前線で控えるベテラン選手に依頼心を抱えながらプレイしたとしても不思議はない。そういう意味では、オランダは世代交代が一気に進みすぎたとも言えるのだろう。30代のベテラン数名を除けば、あとは主力のほとんどが20代前半というのではいかにも若い。

選手層が薄い原因は中堅世代の伸び悩み

本来、オランダには現在のベテランと若手とをつなぐ、中堅世代とでも言うべき選手が育っているはずだった。具体的に言えば、2007年にヨーロッパU-21選手権を制覇した当時のメンバー、FWライアン・バベル、DFヘドヴィヘス・マドゥーロといった選手たちである。華々しい実績を残した彼らは当然、次代のA代表を担うと目された。ところが、彼らはその期待に応えたとは言い難く、結果、現在のオランダ代表は20代後半の選手層が薄い。こうした年齢バランスの悪さも、せっかくの若い才能をチーム力のアップに直結させられない要素となっているのではないだろうか。

現在の代表メンバーを見れば、オランダが優れたタレントを生み出す育成大国であることに疑いはない。だが、その育成大国をもってしても円滑な世代交代は簡単な作業ではないということだ。代表チームが強くあり続けることはこれほどまでに難しいものなのかと思い知らされた、オランダのユーロ予選敗退だった。

文/浅田 真樹
theWORLD167号 10月23日配信の記事より転載

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