[ユーロ2016でわかる欧州新勢力図 3]もはやアウトサイダーではない! 進撃のオーストリア

「夢がかなった」

2試合を残して本大会出場を決めたオーストリア代表のスイス人監督、マルセル・コラーは満面の笑みを浮かべて翌日の記者会見に登壇した。ベレー帽をかぶり、バゲットをかじる“フランス流”のパフォーマンスを見せるあたり、いかにも上機嫌である。しかし無理もない。スウェーデンやロシアと同居したグループG で10試合を戦って9勝1分けという彼らの戦いは、厳格なリーダーとして 知られる彼をおどけさせるほど鮮やかだった。

チームの顔として絶対的な存在感を誇示するMFダビド・アラバも、「夢がかなった」と興奮を隠さない。
「みんな大喜びしているよ。このチームは雰囲気が素晴らしくて、ピッチ外 でも家族のように一緒に過ごしている。フランスでもいい戦いができるよう、もっと学んで成長したい」

ドイツ王者バイエルンの史上最年少出場記録を持つ彼は、23歳にして世界屈指のタレントに成長した。バイエルンではセンターバックなども務めるが、代表ではボランチを 主戦場とする。抜群のテクニックと攻撃センスに非の打ちどころはなく、加えて圧倒的な走力を誇る彼は、現代サッカーの申し子と評するにふさわしい。

好タレントを揃えるオーストリア

もっとも、このチームのタレントは アラバだけではない。守備陣のリーダーは、キャプテンマークを巻くクリスティアン・フクス。アラバをボランチで起用できるのは、好守両面で抜群の安定感を誇る彼の存在があるからに他ならない。センターバックにも若く有望な顔ぶれが揃う。アレクサンダル・ドラゴビッチはディナモ・キエフに所属する24歳。一時はマンチェスター・Uやアーセナル、インテルも獲得に本腰を入れた逸材だ。控えに回るケヴィン・ヴィマーは昨季ケルンで頭角を現した急成長株。今夏の移籍市場でプレミアリーグのトッテナムに引き抜かれた22歳も、戦力として十分に計算できる。

攻撃陣もバランスがいい。指揮官は4-2-3-1をメインシステムとして採用しており、今予選を通じてレギュラーの顔ぶれはほぼ定着した。 左サイドは、プレミアリーグのストークに所属するマルコ・アルナウトビッチ。かつて「イブラヒモビッチ2世」と 称されたアタッカーは、たびたび問題視されてきた素行の悪さを克服し、ようやく本来の力を発揮しつつある。トゥヴェンテ時代に見せつけたポテンシャルを考えれば「まだまだ」だが、彼のトリッキーなドリブルとパスは チームにとって不可欠な武器だ。

一方の右サイドは、近年の代表チームを牽引してきたマルティン・ハルニクの 定位置。2007年の U-20W杯で4位躍進を遂げたチームの中心選手で、その後もブンデスリーガを舞台に十分な存在感を示し てきた。アルナウトビッチとハルニク、さらにトップ下を務めるFKの名手ズラトコ・ユヌゾビッチは予選10試合 すべてに出場しており、指揮官の信頼は極めて厚い。2列目に位置する彼ら3人が、予選で7得点を記録した32歳の長身FWマルク・ヤンコに いかに多くの決定機を供給できるか が、本大会での命運を左右するポイ ントとなる。

台風の目になる可能性は 十分に秘めている

かつてオーストリアは、“ごくまれに”ワールドクラスの名手を輩出してきた。ドルトムントの一員として欧州を制したDFファイアージンガー、「アルプスのマラドーナ」と称されたMFヘルツォーク、「ヘルツォーク2世」と期待された MFイヴァンシッツ、歴代最多得点記録を誇るFWポルスターたちである。しかし、いつの時代も“一人の名手”に依存するチームは国際舞台で結果を残せず、隣国ドイツやイタリアの後塵を拝した。しかし、史上初めて自力での 予選突破を決めた現代表は、これまでのチームとは雰囲気が異なる。ワールドクラスと言える タレントはアラバのみだが、その域に達する可能性を秘めたタレントと経験豊富なベテランが融合し、組織としての完成度は極めて高い。国際舞台に上がるのは、惨敗を喫した1 9 9 8 年ワールドカップ以来。奇しくもあの時と同じフランスを舞台に 暴れるオーストリア代表は、台 風の目となる可能性を十分に 秘めている。

文/細江 克弥
theWORLD167号 10月23日配信の記事より転載

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