[ユーロ2016でわかる欧州新勢力図 2]10戦全勝のイングランドは、本当に強くなったのか!?

いまだ確立されない連携。注がれ続ける疑いの眼差し

イングランドは10戦全勝でユーロ予選を突破した。過去に1ポイントもロスしなかったチームは、1992年と2004年のフランス、2000年のチェコ、12年のドイツ、スペイン。この5チームに続く快挙だ。総得点31はポーランドの33に次ぐナンバー2であり、失点3もスペインと並んで2位タイ(最少失点はルーマニアの2)。文句のないデータである。

ブラジル・W杯で見事なパフォーマンスを演じたスイスが精彩を欠き、スロベニア、エストニア、リトアニア、サンマリノと、くみしやすい相手と同じグループに入ったとはいえ、イングランドが10戦全勝で本大会に進出するとは、予選が開始する時点で誰が予想できたというのだろう。

なにしろ、2敗1分けに終わったブラジル・W杯のメンバーから、スティーブン・ジェラードとフランク・ランパードが外れた。試合内容が芳しくなく、チームとしての戦略・戦術、選手個々の動きなど、及第点といえる部分が皆無に等しかったイングランドに、期待できないのも無理はない。
いや、現在も懐疑的な視線は少なくないのだろう。予選を通じ、本拠地ウェンブリーが盛り上がるシーンは少なかった。GKジョー・ハートの安定とCBクリス・スモーリングの急成長で守備は安定しているものの、攻撃は個人の能力に多くを委ね、連携プレイは数が限られている。サポーターのハートには訴えづらい。

ルーニーはもはや“絶対的エース”ではない

また、ウェイン・ルーニーのコンディションが一向に上向かず、ボールタッチを誤ったり、パスの精度が鈍っていたり……。その結果ラヒーム・スターリングのスピード感がそがれ、アダム・ララーナの巧みなポジショニングが無意味になるケースも、決して少なくはなかった。

ロイ・ホジソン監督も、「たとえルーニーでもポジションが保証されているわけではない」と警鐘を鳴らしている。

イングランドの基本フォーメーションを予選で多用した4-2-3-1と仮定した場合、ルーニーのベストポジションは二列目中央だ。ただ、足首とハムストリングに不安を抱えているため、今シーズンは所属するマンチェスター・ユナイテッドでも試合の流れから消えている。先述したホジソン監督のコメントも、「急ピッチで仕上げないと試合には出られないぞ」との意味合いを含んでいるのかもしれない。

ユナイテッドでトップ、トップ下、ウイング、中盤センターなど、クラブの都合で便利に使われている間に、ルーニーは野性を失ってしまった。声高にルーニー不要論を唱えるつもりはさらさらないが、このまま彼らしくないプレイが続いた場合は、ホジソン監督も決断するべきだろう。

さらに、ルーニーを脅かしているのがロス・バークリーの抜擢である。189センチの長身ながらボールタッチは繊細で、ビジョンにも優れている。現時点でルーニーに劣る部分があるとすれば、攻→守の切り替えだけであり、そのほか攻撃的な要素ではバークリーが上まわったといって差し支えない。

ルーニーを起用すれば、周囲は彼に気を遣う。キャプテンが“黒子”に徹するとも思えない。イングランドにも、変革期が急速に訪れているということか。

そしてホジソン監督は、強豪・名門、実績にこだわる人選をやめるべきだ。予選突破が決まったにもかかわらず、新戦力をテストしようとはしなかった。プレミアリーグ内のチェックも、チャンピオンズリーグ出場権を狙うビッグチームばかり。ホジソン監督と彼のスタッフが柔軟に対応し、クリスタル・パレスのスコット・ダン、ジェイソン・パンチョン、ウェストハム・ユナイテッドのアーロン・クレスウェルの3選手は、一刻も早くテストするべき人材なのだが……。

10戦全勝といっても、試合内容が伴っていたわけではない。偶然性と幸運の産物だ。中盤センターも人材不足で、試合をクローズできるタイプが見当たらず、マイケル・キャリックは来年35歳になる。ジェームズ・ミルナーは相変わらず退屈だ。

予選の快進撃にごまかされてはいけない。イングランドの暗中模索は、まだ続いている。

文/粕谷 秀樹
theWORLD167号 10月23日配信の記事より転載

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