監督はツライよ! ビッグクラブならではの頭痛の種

カルロ・アンチェロッティ監督。photo/Getty Images

パワーバランスの見極めは必至。スター選手と衝突は命取り?

監督の一番の仕事とは何か? 「選手が気持ちよくピッチに出て行けるようにすること」。当時Jリーグのクラブを率いていたある監督に尋ねると、そう語った。さて、では監督が最高の仕事をする環境は、どうやって整えられるのだろうか?

現在一番頭を悩まされているトップクラブの監督は、レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティではないだろうか。頭文字を取って「BBC」と名付けられたクリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイル、カリム・ベンゼマによる前線は、世界中の監督がうらやむ豪華さだ。だが、それが両刃の剣にもなっている。
選手の間では、ベイルが浮いてしまっている。一番の仕事であるゴールに絡むプレイを続けていれば問題なかったのだが、今年に入ってからの不振でチームメイトの不満の声が表面化した。「したくないからと、守備をしないんだ」との不平が漏れ伝わってきている。

だからといって、アンチェロッティ監督も簡単にベイルを外すわけにはいかない。フロレンティーノ・ペレス会長とすれば、大枚をはたいて手に入れた「1億ユーロの男」。昨季のデシマ(チャンピオンズリーグ10度目の優勝)達成の鍵を袖にされることは許しがたい。自身の責任問題にも発展しかねないからだ。こうして会長の「もっと練習しろ」とのプレッシャーと選手の不満との板挟みに、アンチェロッティ監督は陥っている。「第1次銀河系軍団」を率いたのは、のちにスペイン代表でワールドカップとEUROを制するビセンテ・デル・ボスケ監督だった。そのチームの破綻のきっかけは、中盤の守備を一手に引き受けるクロード・マケレレの退団だった。クラブが十分なサラリーを払うことを渋った結果だったが、その縁の下の力持ちの退団と同時にクラブを離れたデル・ボスケの判断は正しかった。おそらくアンチェロッティも今、ピッチ上とクラブ内のパワーバランスの見極めという、自身の岐路に立っている。

ライバルのバルセロナも、チーム内のバランスがおかしくなってきている。リオネル・メッシが、あまりに特別になりすぎたのだ。その独特のプレイ哲学を大事にするクラブでは、もはや外部からの指揮官登用が難しくなっている。近年のグアルディオラの大成功を受けては、なおさらのことだろう。

かくして今季のチームはOBのルイス・エンリケに預けられたが、成否は微妙な状況にある。ローマでもフランチェスコ・トッティというチームの顔と衝突した「前科者」は、またもエースと揉め事を起こし、不仲が広く噂された。昨年の会長交代以降ゴタゴタが続くクラブでは、内部での支援を仰ぐことも難しい。幹部やディレクターが相次いでクラブを去ったバルサでは、誰もが自身の保身で精一杯なのかもしれない。

エンリケが今季ある程度の結果を残したところで、来季の成功も約束されるわけではない。なにしろ、FIFAから科された2016年までの補強禁止処分は重すぎる。他チームに行ったところで、その独特の哲学を浸透させられるかも分からない。今のところ、成功した人物はグアルディオラという稀代のカリスマしかいないのだ。

雇われ料理人なイタリアの監督たち。イングランドはまさにオーナーシェフ

ラテンの国は似た傾向を持つのか、イタリアのクラブもトップの強すぎるリーダーシップが目につく。最近ではミランMF本田圭佑の「このクラブはイタリアで一番政治的」との発言が報道されていたが、内部にいるからこそ、そうしたものを強く感じるのだろう。

ミランといえば、長年にわたってシルヴィオ・ベルルスコーニがトップに立ってきた。法的な問題により政治家とオーナーの兼業はできなかったが、イタリア首相も務めた強烈な個性の持ち主が、クラブの実質的な支配者だった。フォーメーションに口を出し、補強にも好みを色濃く反映させる。現在は跡目を娘に譲ったが、その影響は色濃く残る。クラレンス・セードルフにフィリッポ・インザーギと、トップチームでの監督経験がないOBが連続して指揮官に抜擢された事実が、このクラブの「政治的」な匂いを濃く放つ。生き延びねばならない監督はトップの顔色をうかがわざるをえず、声を荒らげて会見を打ち切るなど、最近のインザーギ監督は苛立つ姿を見せることが多くなった。

イタリアでは、子供の一番の夢はサッカー選手になること。それが叶わなければ、クラブのオーナーになること。決して、監督になることではないのだ。

監督の立場で対照的なのが、単なる雇われ料理人ではなく、オーナーシェフといった趣のあるイングランドだろう。必ずしもそうなるとは限らないが、サー・アレックス・ファーガソンを筆頭に、単なる「コーチ」からクラブのマネジメントまで考慮する「マネジャー」になることで、クラブ(幹部)と同一化、長らく在籍することが多い。

補強に関しても、予算さえ引き出せれば選択肢への監督の裁量は大きい。優秀なマネジャーを得ることは、強いチームを作ることのみならず、安定したクラブ運営をも意味する。ただし、うまく後継者を見つけなければ、優秀な監督の在籍期間が長くなるほど、「その後」で苦労することはマンチェスター・ユナイテッドを見れば明白だ。近年、シーズンのたびに監督交代が噂に上るアーセナルも、アーセン・ヴェンゲルにすがり続けている。

特別な監督を擁することは、格別なものである。だからこそチェルシーは、ジョゼ・モウリーニョを呼び戻した。

だが、その「スペシャル・ワン」も、実は「ナンバーワン」ではないらしい。プロの世界では、サラリーは価値を示す重要な指針だ。諸説はあるものの、サッカー界の監督年俸ランキングで、彼は2位であるようだ。トップ10はだいたい年俸1000万ドル(約13億5000万円)程度。モウリーニョは1700万ドル前後であると言われている。

その中、2000万ドル台に突入している監督が一人だけいる。バイエルンのグアルディオラだ。一番大事なピースに惜しげも無く大金を注ぎ込むあたりは、やはりバイエルン、さらにドイツサッカーの隆盛を物語っているのかもしれない。

theWORLD160号より転載

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