【結果を出す監督 2】異なる指向を持つ2人のリーガ指揮官

死線をくぐり抜けるシメオネのアトレティコ

有料民間テレビ局『カナル・プルス』が放送したアトレティコ・マドリードの指揮官ディエゴ・シメオネのインタビューで、彼はこんなことを言っていた。
「ポゼッションは相手を快適にするためのものだと思っている。ポゼッションが相手に打撃を与えるものならば歓迎するよ。このテーマについては、アクション映画か恋愛映画かという話で、私はアクション映画を好んでいる」
シメオネが好むアクション映画は、もちろんカウンタースタイルである。それはアトレティコのレジェンド故ルイス・アラゴネスが「私こそカウンターの支配者」と話したことがあるように、このクラブのアイデンティティーとされるものだ。シメオネは選手としても在籍したアトレティコに監督として戻り、「今こそクラブのエッセンスを取り戻そう」とそれを実践したことでリーガ優勝、チャンピオンズリーグ決勝進出という結果を手にしたのだった。
アトレティコはスペインにおいてビッグクラブとして扱われ、在籍する選手たちはエリートと称しても差し支えない。だがグローバルの波に乗って成長の歩幅を広げていくレアル・マドリードやバルセロナと渡り合うためには、シメオネの言う通り「自分たちが劣っていることを認める」必要があった。そのことを根本とする彼のスタイルは、個人の技量に頼ることなく、集団としてのパフォーマンスに特化することで、端的に表しているのが局地的な数的優位の創出である。
アトレティコのプレーの基本は四角形を形成することにある。特に顕著なのが同サイドのセンターバック、サイドバック、ボランチ、サイドハーフによる四角形、またはサイドバック、ボランチ、サイドハーフ、シャドーストライカーによるサイドでの四角形だ。
局地的に人を集中させることで、素早いプレッシングですぐさまボールを取り返してショートカウンターを仕掛ける。また、そのプレッシングでボールを奪えなかった場合には、潔く自陣へと戻って守備の陣形を展開。そこから繰り出すスピードを生かした速攻は迫力満点で、このようなプレイの緩急こそがシメオネの話すアクション映画ということになる。
後方のスペースを活用されないことを重視するこれらの動きに必要なものは、インテンシティーと献身性となるが、稀代のモチベーターとして知られるシメオネの印が刻まれた選手たちがそれらを欠くことはない。
アルゼンチン人指揮官は語る。「エゴがある選手も個人的には評価するが、そのような選手たちは少ない方が好ましい」「ここの選手たちには死ぬ覚悟がある。彼らが死の恐怖におびえることはない。フットボール的な感覚で話していることだが、分かるだろう?」
彼の率いる選手たちはアクション映画さながら、まさに死線をくぐり抜けているのだ。

濃密なロマンスを描く、パコ・ヘメスのラージョ

パコ・ヘメスは予算1000万ユーロ弱のラージョ・バジェカーノで、超攻撃的なサッカーを実践する監督だ。残留を目指すクラブは、通常ならば堅守をベースとしたサッカーを実践するものだが、彼が恐れることはない。最終ラインは極めて高く設定され、ポゼッションサッカーによって果敢にゴールを狙うのがそのプレイスタイル。なぜかと問うと、「青色を好きなことに理由がないように、私は美しいサッカーを好む」(パコ・ヘメス)という答えが返ってくる。
現役時代にセンターバックを本職としたこの監督が歴代最高のチームと称するのは、ペップ・グアルディオラが率いたバルセロナである。現在のラージョは、ルイス・エンリケ指揮下でカウンターも使い始めた現在のバルセロナよりもバルセロナらしいのかもしれない。いや、退場者が出てもFWを投入して3バックを実践するなど、バルセロナ以上の攻撃性である。
パコ・ヘメスが指揮するラージョの通算成績は3 9勝1 1分5 3敗と、勝敗のなかで最も引き分けが少ないまさに“勝つか負けるかのチーム”だ。3回引き分けるよりも、1回勝利を収める方が効率が良いという計算があり、実際にこのやり方で2シーズン連続となる1部残留を果たしている。毎シーズン、1 0人以上の選手入れ替えがある中で時間がかかるポゼッションサッカーに取り組み、なおかつ結果を残しているというのは、絶対的に称賛されるべきことである。
シメオネはカウンター=アクション映画、ポゼッション=恋愛映画という定義について、「ポゼッションが意味なくパスを回すだけであれば、退屈で見るのを止める」と話している。一方、私がパコ・ヘメスにインタビューをした際にその旨を話すと、「ならば誰よりも濃厚なロマンスを描いていく」との返答が得られた。幾度も最終ラインを突破されてリーグワーストとなる50失点(第27節終了時点)を記録しながらも、決して攻めの姿勢を崩さない……。
パコ・ヘメスの起伏に富んだ恋愛映画であれば、上映途中に映画館を後にする人間は少ないの
ではないだろうか。そんな例えを抜きにしても、ラージョの本拠地バジェカスの観衆は、興奮のあまり試合中に幾度も席から腰を浮かせながらチームを見守っている。

文/江間 慎一郎

theWORLD160号より転載
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