【結果を出す監督 1】圧倒的な「スペシャル・ワン」支持の理由と、ファン・ハールに欠けているもの

チェルシーの主将テリーは、モウリーニョに全幅の信頼を寄せる。photo/Getty Images

監督が成功する秘訣は人心掌握術にあり

英国の人気雑誌『FourFourTwo』が、英国でプレイする1 2 3名のプロ選手にアンケート調査をした結果、理想の監督ランキングが以下のように設定された(数字は得票率)。

1位:ジョゼ・モウリーニョ(チェルシー)4 8%

2位:ジョゼップ・グアルディオラ(バイエルン・ミュンヘン) 3 1%

3位:アーセン・ヴェンゲル(アーセナル) 8%

5位:ユルゲン・クロップ(ボルシア・ドルトムント)6%

5位:サム・アラダイス(ウエストハム・ユナイテッド)6%

モウリーニョの人気はたいしたものだ。半数近くに支持されている。前面に立って選手を守る姿勢、リーグカップ優勝後のセレモニーで見せた無邪気な喜びなどが、選手の心を捉えて離さないようだ。インテル・ミラノを指揮していた当時も、あのマルコ・マテラッツィが、2 0 0 6年ワールドカップ決勝でジネディーヌ・ジダンに罵詈雑言を浴びせるなど、決して品行方正ではない男が、モウリーニョとの別れでは人目もはばからず慟哭している。

また、ひと癖もふた癖もあるフランチェスコ・トッティでさえ、日本のサッカー誌のインタビューに応じた際、次のように語っていた。

「年齢的には絶望的だけど、一度でいいからモウリーニョ監督のもとで働きたかった。数多くの選手が最高の監督、人間として、男として憧れると言っていた。オレもいろいろとアドバイスしてほしかったよ」

一挙手一投足が注目され、刺激的なコメントでヒール的に扱われるケースも多いモウリーニョだが、彼に心酔する選手はマテラッツィやトッティだけではない。チェルシーのジョン・テリーは「業界ナンバー1のモチベーター。人をその気にさせる術に長けている」と絶賛し、ディディエ・ドログバに至っては「いつでも俺たち選手を守ってくれる。一生ついていくぜ」と、全幅の信頼を寄せていた。

さらにジョー・コール(現アストンビラ)も、モウリーニョに感謝する選手のひとりだった。

「モウリーニョ監督には食生活の改善を徹底的に指導された。ジャンクフードばかり食べていると、あっという間にキャリアが終わるぞ。揚げ物と炭酸飲料は一切禁止だってね。いまでもプレイできているのは、すべて監督のおかげだ」

巧みな人心掌握が伝わってくるコメントの数々だ。

レアル・マドリードを率いていた当時、モウリーニョは多くの批判にさらされた。バルセロナのコーチだったティト・ビラノバ氏(故人)にサミングを仕掛けたり、シャビ・エルナンデスに守備的なスタイルを全否定されたり… …。そしてレアル内部では起用法を巡り、イケル・カシージャスと対立した。 しかし、サミングだけは絶対に肯定できない行為だとしても、守りを重視するフットボールがあってしかるべきだ。基本的に、ポゼッション対ポゼッションはありえない。相反する価値観がぶつかり合うからこそ楽しいのであって、「ポゼッションは正義、カウンターは悪」と病的に繰り返したバルサ系メディアの論理は、あまりにも主観的すぎる。

そしてカシージャスを干したプランも、彼に内部情報漏えいの疑いがあったからであり、監督としてペナルティーを科すのは当然だ。カンテラ上がりのカシージャスは絶対だと頑なに信じ、モウリーニョを「独裁者」と断罪したレアル系のメディアは常軌を逸していた。

モウリーニョは、恵まれすぎているバルサとレアルに“ぶら下がった”メディアの被害者かもしれない。イタリア、イングランドで絶大な人気を誇る事実をふまえれば、スペイン側にも非はあったと考えるのが妥当だ。

サム・アラダイスのトップ5は意外だった。斬新な戦術の使い手ではなく、謙虚でもなく、体型も残念すぎるほどだらしないが、得点・失点に一喜一憂する姿が受け入れられたのだろうか。あるいは先述した謙虚ではないところが、豪放らい落と好意的に評価されたのか。イングランド人では唯一のトップ5入りである。なるほど、テクニカルエリアで暴れている姿は愛くるしい。なんとなく、感情移入もできる。

無表情なファン・ハールが、窮屈な空気を作っている

翻って、マンチェスター・ユナイテッドのルイ・ファン・ハール監督はどうか。記者会見で選手を守ることはまずしない。最優先はみずからが使った戦術の理論武装で、その論理に選手を強引に当てはめる。ゴールを奪っても滅多に喜ばず、失点しても無表情だ。モウリーニョは絵になるポーズをしばしば見せる。サー・アレックス・ファーガソンやアーセン・ヴェンゲルは、チームが点を取ると少年のようにはしゃいでいる。プレミア以外では、アラダイスと並んで5位タイに入ったクロップも、感情表現豊かな監督だ。今シーズンのユナイテッドがなんとなく窮屈そうに映るのは、ファン・ハールが無表情を決めこんでいるからではないだろうか。何を考えているのか分からない。近寄りたくはない。

これまで暴君とさえいわれてきたファン・ハールだが、ユナイテッド監督着任後は、日に日に存在感が薄らいでいる。監督のタスクが人気取りでないとはいえ、人間的な側面も垣間見せる必要がある。近ごろの彼は少々不気味だ。

文/粕谷 秀樹

theWORLD160号より転載

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