【コラム】Jリーガーのプレイ環境を考える

オシムが率いる千葉はよく走るチームだった。甘えを許さない厳しい指導者のもと、2005年、2006年のナビスコ杯を連覇するなどチームは好成績を残した。photo: Getty Images

以前、乾貴士を取材したときにこんな言葉を聞いた。

「海外でプレイするのは楽しい。できることなら、もっと早く海外移籍したかった。若い選手はなるべく早いうちに海外でのプレイを経験したほうがいい」

国内と海外では、何がそんなに違うのだろうか? かつてJリーグのジェフ千葉を率いていたイビチャ・オシムは、日本人選手のサッカーへ取り組む姿勢について、意識の低さや甘さを事あるごとに指摘していた。

「日本の選手には試合に負けても次があるという気持ちがある。また同じような明日が訪れるため、ときに勝負へのどん欲さに欠けるときがある。海外では各選手が『負けると次はない』という危機感を持って一試合一試合に臨んでいる」

プロサッカー選手が活躍できる期間は短く、いつプレイできなくなるかわからない。将来に後悔しないためには、サッカー選手は私生活も含めてすべての時間をサッカーのために費やすべきというのがオシムの考えだった。

実際、同氏は指導者になってからも常にサッカーのことを考える日々を送っていた。あるときのインタビューで、時間があるときには何をしているか。息抜きでどんなことをしているか質問したことがある。返ってきたのは、「時間があったらサッカーのことを考えている。息抜きしているヒマはない」という答だった。あるときのJリーグで、オシムは失点につながるミスをした選手をロッカールームで叱咤している。『お前のせいで失点したんだ!』と真剣に怒っている。すると、ある程度の経験がある中堅だったその選手は、不甲斐ない自分に悔し涙を流したという。

ひとつのプレイがゴールにつながり、勝利となり、自分が生きていく糧(収入)へとつながる。ケガをする可能性を考えれば、明日が約束されているサッカー選手は誰ひとりとしていない。日々の練習に心血を注いで取り組み、試合では勝利を目指して常に全力を尽くす。この当たり前のことが、誕生から20年以上が経過したのに、Jリーグではまだできていないと感じる。

2001年に聞いた話を紹介する。あるミュージシャンがJリーガーに招待され、スタジアムで観戦したときのこと。その選手が所属するチームは劣勢を強いられ、試合に敗れた。すると、試合後に「今日はゴメン。調子が出なくて動きが悪かった」と謝ってきたという。ミュージシャンはこの言葉に驚き、エッと思ったそうだ。「少なくとも、ボクはライヴのときに『調子が悪くてゴメン』と謝るようなことはない。万全の準備をして臨んでいるから」と教えてくれた。当時、Jリーグができてまだ10年が経っていなかった。まだ歴史が浅いとはいえ、サッカー界で働く者として、この言葉を聞いたときに少し恥ずかしかった。

プロサッカー選手とはどういうもので、どういう気持ちで試合に臨まなければならないか。Jリーグではいまでも、試合後の記者会見で精神面について語る監督が多い。2014年12月7日に行なわれた千葉×山形のJ1昇格プレイオフのあとの記者会見でも、千葉の関塚隆監督、山形の石﨑信弘監督ともに、精神面について語っていた。この一戦に限らず、Jリーグは同じチームであっても、試合によって運動量に差があり、チームの連係が機能したりしなかったりする。そしてそれは、対戦相手うんぬんではなく、自分たちのデキに原因があったというケースが多い。

どの試合にも、両チームの全選手が肉体的、精神的に万全のコンディションで臨むのが理想だ。精神力の差が勝敗を分けるという状況は、本来正しくない。しかし、Jリーグの現状を見ると、必ずしも理想どおりにいかない事情もわかる。すべてのチームが専用のクラブハウスや練習場を持っているわけではない。複数の試合が同時進行し、日程を調整するのが難しく、過密日程を強いられるチームもある。

各選手が常にサッカーのことだけを考え、私生活も含めて練習&試合に打ち込める日々を送れていればいいが、残念ながらまだそこまでの環境は整っていない。チームによってプレイ環境に差があり、選手の“頑張り”がなければやっていけないチームもある。そう考えると、試合中に安易なミスを犯す選手や足をつる選手がいても仕方ないと思える。むしろ、「よくやっているよ」とその頑張りを称えなければならないぐらいだ。いまの状況を考えると、日本代表で活躍するJリーガーが少ないのも納得できる。取材者にこのような印象を与えてしまうのは寂しい。間違いなく、改善しなければならない。

Jリーグは発展途上で、ポジティブに考えれば伸びしろがある。2015年からはレギュレーションが変わり、前期・後期の2ステージ制となる。これにより魅力が増し、各チームの収入が増えれば選手のプレイ環境が良くなるはずだ。いや、良くならなければおかしい。日本サッカーの発展のために必要なのは選手の成長で、大局的に見ればプレイ環境を整えるための改革なのだから──。ただ、その先には厳しい評価が待ち受けている。「今日はゴメン。調子が出なくて……」という言い訳は、当然ながら通用しない。

乾貴士が感じている海外でプレイする楽しさは、サッカーに集中できる日々を送れているからだ。厳しい批判にさらされ、サポーターからブーイングを受けることもある。しかしそれは、与えられた環境のなかで結果を残せなかった自分に責任があると受け止めている。こうした環境を日本でも整えることができれば、世界で戦える質の高い選手がJリーグからコンスタントに出てくるはずだ。

文・飯塚健司
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このコラムは「theWORLD」本誌2014年12月23日号に掲載されています。
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