0トップでスペインに蘇る”ティキ・タカ” ロシアの地から再び黄金期が始まるか

欧州予選グループGで首位に立つスペイン photo/Getty Images

イタリアを圧倒した戦術の幅

2014ブラジルワールドカップのグループステージ敗退に始まり 、EURO2016ではベスト16でイタリア代表に0-2の完敗を喫するなど、近年のスペイン代表には暗い話題が多かった。EURO2008から国際大会を3連覇した時の姿はなく、黄金期は完全に過ぎ去ってしまった。しかし、現在2018ロシアワールドカップ出場を目指して欧州予選を戦うスペイン代表には希望の光が見えてきている。

注目すべきポイントは戦術の幅だ。2日に行われた欧州予選グループGのイタリア代表戦では、純粋なセンターフォワードを配置しない0トップを採用。ダビド・シルバ、マルコ・アセンシオ、イスコの3人が自由にポジションを変え、イタリア守備陣はそのランダムな動きに戸惑っていた。そして何よりイスコとアセンシオはジネディーヌ・ジダン率いるレアル・マドリードで急成長を遂げた選手で、そのテクニックはワールドクラスだ。この2人が新たな黄金期を作り出しても何の不思議もない。

また、0トップを採用してポゼッションを重視したサッカーに取り組んだことでアンドレス・イニエスタとセルヒオ・ブスケッツの2人も良い影響を受けていた。2人は黄金期を知る経験豊かな選手だが、33歳となったイニエスタには衰えを指摘する声もあった。年齢的な問題もあって怪我が増えてきているのは事実だが、今回のイタリア戦では何度も好パスでチャンスを演出。チームのプレイスタイルが徹底されたことで輝きを取り戻し、イニエスタとブスケッツはバルセロナでプレイしている時以上に楽しんでいるようにも見えた。近年のバルセロナはリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールのMSNトリオを軸に縦に速いフットボールを展開していたが、やはりイニエスタやブスケッツには今回スペイン代表が採用したようなポゼッションベースのスタイルが合っている。
さらに後半から出場したFWアルバロ・モラタも見逃せない。モラタは77分にチーム3点目となるゴールを決めており、相変わらず得点能力は高い。今後も代表の点取り屋として貴重な存在となるだろう。ただ、近年のスペインがセンターフォワードの層に問題を抱えていたのは明らかで、今回はダビド・ビジャ、EURO2016でもアリツ・アドゥリスとベテラン選手を招集している。ジエゴ・コスタも代表では思うような活躍ができず、実質計算できるのはモラタくらいだ。しかし0トップとモラタの1トップを併用できれば、戦術プランは一気に広がることになる。モラタは昨季レアル・マドリードで示していたように、途中出場からでもゴールを奪える選手だ。試合途中にスタイルをガラリと変えられるのは大きく 、得点が欲しい時にはモラタを入れてサイドからクロスを積極的に放り込むプランも立てられる。

加えて今回のメンバーにはスソ、ジェラール・デウロフェウと昨季ミランで結果を出したウイング2人が招集されている。スソはより技巧派の選手だが、デウロフェウは縦への突破も可能とする抜群のスピードを持っている。ゲームのリズムを変える選手としては最高の2人だ。思い出されるのは、黄金期のスペイン代表でスーパーサブ的扱いだったヘスス・ナバスだ。ナバスはスタメンで出場する機会は多くなかったが、2010南アフリカワールドカップとEURO2012ではベンチからリズムを変える選手として途中出場するケースが多かった。ポゼッションスタイルに加え、右サイドから徹底的に縦へ仕掛けるナバスがいたのは大きい。デウロフェウとスソに同じような役割を求めることも可能で、ベンチワ ークの面でも今のスペインは引き出しが多くなっている。デウロフェウは今夏バルセロナに移籍したため、そこで出場機会を確保できるのかは不透明だが、上手くいけば来年のワールドカップで重要な戦力となるだろう。

EURO2016の戦いぶりから、ロシアワールドカップでスペインを優勝候補に挙げる者はそれほど多くなかったかもしれない。タレント軍団になったフランス代表、南米予選で圧倒的な力を見せるブラジル代表、主力メンバーを休ませてもコンフェデレーションズカップを制覇してしまったドイツ代表の方が人気は高いだろう。しかし今回イタリアを撃破したスペインには黄金期を思わせる強さがあり、世界的な評価が一気に上がったはずだ。果たしてスペインはロシアの地から再び黄金期をスタートさせられるのか、イタリア相手の戦いに魅了されてしまった人も多いだろう。

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