日本の「走力」はW杯でサプライズを起こすか 世代交代が生んだ新たな武器

W杯出場を決めた日本代表 photo/Getty Images

4年前にはなかった新たな武器

UAE相手にホームでまさかの敗戦を喫した2018ロシアワールドカップ・アジア最終予選の始まりから約1年。苦しんだ末に6大会連続のワールドカップ出場を決めた日本代表の顔ぶれは徐々に変化していった。

1-2で敗れた衝撃のUAE戦では最前線に岡崎慎司、2列目には右サイドに本田圭佑、トップ下に香川真司、左サイドに清武弘嗣が入っていたが、ワールドカップ出場を決めた31日のオーストラリア代表戦では負傷離脱中の清武も含め4人ともスタメンには選ばれなかった。前線に選ばれたのは大迫勇也、乾貴士、浅野拓磨の3人で、中盤では21歳の井手口陽介が先発に抜擢されている。日本はなかなか本田や岡崎ら北京五輪世代から脱却できなかったが、この1年で状況は大きく変わった。

本田が所属クラブで苦戦していたことも大きいが、今では2012年のロンドン五輪世代よりもさらに下のリオデジャネイロ五輪世代がスタメンに割って入ってきている。浅野、井手口もリオデジャネイロ五輪を経験した選手で、終盤に途中出場したFW久保裕也もU-23日本代表のエースだった。本田や香川らこれまでの主力が思うようなパフォーマンスを見せることができない中、若手が台頭してきたことは大きい。使わざるを得なかったとも言えるが、代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチの思い切った起用法が若手の成長を助けることになった。
この世代交代で変わったことといえば、「走力」ではないだろうか。日本は今回オーストラリアに2-0で勝利したものの、攻撃の質はそれほど高かったとは言えない。プレイメイカーらしい選手はおらず、序盤からパスを繋ぐことに苦労し、攻撃に特別なアイディアがある訳でもなかった。ボールを回していたのはオーストラリアの方で、それこそ4年前に今回と同じ埼玉スタジアム2002でワールドカップ出場を決めたオーストラリア戦とは真逆の関係になっていた。

41分には浅野が先制点を決めたが、それまで浅野は目立った活躍ができていなかった。サイドバックの酒井宏樹との呼吸が合わない場面も目立ち、先制点を決められたのは幸運だったと考えることもできる。後半37分には井手口がスーパーゴールを決めたが、あのシュートも日本のプランにはないミラクルに近いものがあった。

攻撃の質という点で見るなら、香川や本田、さらには遠藤保仁がボランチにいた4年前のチームの方が上だろう。当時はアジアの戦いでは常にボールを支配し、パスもよく回っていた。特別なアイディアもあり、見ていて面白い攻撃だったと言える。しかし、今回オーストラリアを撃破した日本には4年前にはなかった走る力がある。

インサイドハーフで先発した井手口、山口蛍の2人はゲームを組み立てるような選手ではないが、最後まで走り切る豊富な運動量がある。ベンチには司令塔タイプの柴崎岳もいたため、長谷部誠、山口、井手口のトライアングルはホームで勝ち点3を狙いにいくには少々遠慮がちな構成にも思える。それでも長谷部の前で無尽蔵のスタミナを武器にボールを追い回す山口と井手口は守備面で非常に心強い存在だった。

さらにウイングの浅野にはスピードがあり、途中出場した原口元気も今回の予選を通して走り続けていた選手だ。これまでの日本であれほど攻守にハードワークし、突破力も備えているウイングも珍しい。これも4年前にはなかった武器だ。

4年前の日本はブラジルの地で惨敗だったが、その時とは全く異なる走力がある今のチームが来年ロシアの地でどんな戦いを見せてくれるのかは非常に楽しみだ。この走る力こそ縦に速いフットボールを目指してきたハリルホジッチが好むものでもある。攻撃の質、バリエーションでは当時に劣るが、この走り切る力が世界を相手にサプライズを起こす特別な武器となるかもしれない。

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