[特集/挑戦する日本人フットボーラー 1]主力級の活躍見せる欧州のタフガイ三銃士

「巧さ」から「タフさ」へ 変化を見せるサムライの強み

「巧さ」から「タフさ」へ 変化を見せるサムライの強み

その貢献はゴールだけではない photo/Getty Images

ヨーロッパでプレイする、いわゆる「海外組」の特徴が変化している。かつて日本人選手に求められていたのは基本的にテクニックだった。中田英寿から始まって名波浩、中村俊輔、藤田俊哉、柳沢敦、小笠原満男、大久保嘉人など多くの日本人選手がヨーロッパでプレイし、そのときどきで上手くいったりいかなかったりはしたが、共通していたのは技術的に優れていたことだった。

現在、日本代表には多くの「海外組」がいる。大迫勇也、原口元気、酒井宏樹は、その中でもレギュラーポジションを確保している3人であり、同時に所属先のクラブチームでも活躍している。もちろん彼らも技術的に優れてはいるが、それだけではない。彼らが日本代表とヨーロッパで活躍できている理由はむしろ別のところにある。

3人に共通するのはハードワークだ。サイドプレイヤーの原口と酒井はスピードと上下動を繰り返せるスタミナを併せ持つ。FWの大迫は大きな相手を背負ってボールを収められる強さがある。テクニックは優れているがフィジカルが弱いと指摘されてきたかつての日本人選手のイメージは、この3人には当てはまらない。フィジカルは彼らの武器になっている。

ヨーロッパのサッカーが変化してきたこととも関係がある。90年代から00年代にかけて、ヨーロッパで求められる外国人選手はスタープレイヤーだった。チームの中心となりうる高度なテクニックと個性を持った選手が求められた。しかし、近年はヨーロッパのサッカー自体がスターよりもバイプレイヤーを必要としている。もちろんスタープレイヤーは依然として必要とされているが、プレイスタイルがより強度の高いハードワークを要求されるものに変化しているために、そこは最低限求められる資質になっているわけだ。

香川真司や本田圭佑はスタープレイヤーとして迎え入れられた。しかし、クラブが大きくなればその要求も高くなり必ずしも成功を収めていない。コンスタントに出場して活躍しているのはバイプレイヤーである大迫、原口、酒井の方なのだ。

大迫はFWなのでスタープレイヤーかもしれないが、大迫を中心に得点をとらせるというよりも、そのキープ力で周囲を生かして貢献している。ブンデスリーガの大きなDFを相手に、当たり負けせずにボールが収まるのは最大の長所だろう。コントロールする前に先に相手に体をぶつけて機先を制し、当たられたときには逆に踏ん張らずに力を逃がすなど、接近戦での体の使い方と駆け引きに秀でている。前線でボールが収まるFWはどんなチームにとっても有り難いが、FCケルンのようなカウンターを狙うチームにとっては不可欠といえる。さらに飛躍するには得点数を増やすことだろう。パートナーとの関係次第ではもっと得点を増やせるはずだ。

原口は“元気”過ぎたことがアダに!?

原口は“元気”過ぎたことがアダに!?

アグレッシブに攻め上がる原口 photo/Getty Images

原口元気はJリーグでプレイしていたころはドリブラーでテクニシャンだった。海外移籍したことで最も変化した選手の1人だ。現在の原口は無類のハードワーカーとなった。攻守に関与し続け、泥臭いプレイを厭わない。個人プレイヤーだった浦和レッズのころからは想像もできないような完全なチームプレイヤーになっている。デュエルの強さと運動量、縦に速い攻撃を好むヴァイッド・ハリルホジッチ監督にとって理想的なプレイヤーといえる。スピードとドリブルという武器に、運動量、献身性、球際の強さといった新しい長所をプラスした原口は、ハードワークできるテクニシャンになった。ヨーロッパのクラブが第一に必要とするタイプといっていい。

ただ、日本代表でもヘルタ・ベルリンでも欠かせない存在になったことで代表戦とブンデスリーガでフル稼働して疲労し、シーズン終盤は調子を落とした。また、チームにとって必要とされるタイプということは同時にライバルも多いことを意味する。調子を落とせば、たちどころに取って代われる選手が控えている。コンディションを上げ、厳しい競争の中で価値を示し続けなければならない。

あまりにもコスパの良かった日本人SB

あまりにもコスパの良かった日本人SB

フランスでの評価を高める酒井 photo/Getty Images

酒井のマルセイユ移籍はサプライズだった。マルセイユで酒井の名を知る人は当初ほとんどいなかっただろう。マルセイユはフランス随一の人気クラブで名門だが、酒井が移籍したシーズンはオーナーの交代が進められておりクラブとしては非常に不安定な時期だった。思い切って予算を投入できるタイミングではなく、違約金のかからない酒井を“とりあえず”獲得した感が強い。その後、シーズン途中に新しいオーナーが確定すると新監督にリュディ·ガルシアを迎えて強化に本腰を入れだした。冬の移籍市場ではウェストハムからフランス代表のディミトリ・パイェを獲得するなど、ガルシア監督の構想にかなう選手が急速に補強されていった。ただ、そうした変化の中でも酒井は右サイドバックのレギュラーポジションをキープし続けた。右サイドを組むフロリアン・トヴァンとのコンビが確立し、攻守に安定したプレイを披露し続けたからだ。使われるタイプである酒井にとって、柏レイソル時代のレアンドロ・ドミンゲスが貴重なパートナーだったようにマルセイユでトヴァンを得たのは幸運だった。新シーズンはライバルの補強があるとしても、すでに居場所を確保している酒井はアドバンテージを持った状態でスタートできる強みがある。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD188号 2017年7月23日配信の記事より転載

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