名良橋晃の定点観測♯32「J1で各監督が苦悩している。私は経験を積んでいる最中で、まだ監督にチャレンジできない」

川崎はケガ人の復帰待ち。大宮はキッカケがほしい

長いシーズンの間にはどんなチームにも好不調の波があります。現在、J1は第7節を終えたところですが、順調に勝点を伸ばしているチームがある一方で、なかなか本来の力を発揮できていないチームがあります。

川崎フロンターレは指揮官が変わり、大久保嘉人が抜けるなどチーム編成に変動があるなか、シーズン序盤からケガ人が相次ぎました。それでも、中盤には質の高い選手が揃っていて、パスをつなぐサッカーができています。守備に関しても、守るときは守ると割り切っていて、粘り強い守備ができています。ACLでは4戦して4引分けですが、攻撃力のある広州広大と2試合を戦って1失点でした。

勝ちきれない原因は攻撃面にあり、点を取れるようになれば自然と勝点も伸びてくると思います。開幕当初は阿部浩之を前線に起用するゼロトップを採用し、うまくいくのではと思っていた矢先に負傷してしまいました。また、重要な役割を果たすと考えられていた家長昭博、効果的なラストパスを供給する大島僚太なども負傷離脱したことで、攻撃面に関しては迫力不足が否めません。
ただ、こうしたなかドリブル能力が高いハイネルが「個」の力で打開を試みることで良いアクセントになっています。パスをつなぐサッカーを指向する川崎フロンターレのなかで変化をつけることができる選手で、今後ケガ人が復帰したときに鬼木達監督がハイネルをどう起用するのか注目しています。
第7節を終えてサンフレッチェ広島は17位ですが、本来この順位にいるチームではありません。攻撃を支えていた佐藤寿人、ピーター・ウタカが抜け、新たに工藤壮人を獲得しましたが、まだフィットしていません。また、中盤では森﨑和幸がチームから離脱していて、青山敏弘に大きな負担がかかっています。

こうした状況を考えると、丸谷拓也、茶島雄介、森島司、高橋壮也といった若い選手たちの成長が重要になってきます。森保一監督のもと目指すサッカーは確立されていて、堅守をベースに自陣からしっかりとパスをつなぐスタイルに変わりはありません。若い選手を起用してどう結果につなげるかが、森保一監督に求められていることになります。

ベガルタ仙台は4バックから3バックへとシステムを変更したなか、渡邉晋監督がイメージする理想と現実がかみ合っていない印象です。開幕当初は勝利する試合もありましたが、第5節川崎フロンターレ戦あたりから両サイドのウィングバックの背後を狙われ、失点を重ねています。前からプレスをかけてもボールを奪えず、奪えたとしてもビルドアップするときに単純なミスが発生するなどチームがうまく機能していません。

失点が多いのは選手にとってショックが大きく、悪い影響をもたらします。内容を追求するのも大事ですが、ひとつの勝利がクスリとなって自信につながるので、結果を残すために5バックにしてスペースを消すといった割り切った戦い方も必要だと思います。

大宮アルディージャは開幕から6連敗しました。指向するパスサッカーが対戦相手にスカウティングされ、攻撃のスイッチを入れるためのパスを封じられているため、前線のドラガン・ムルジャにボールが収まっていません。そのため、大前元気や江坂任の良さを引き出せずにいます。ただ、決して悲観する内容ではなく、自分たちのサッカーをしようとするなか、相手にしっかりと対応され、焦ることでミスが出ています。自信を取り戻す“なにか”があれば、現状を打破することはできるのではないでしょうか。

優勝へ向けて変化する浦和。神戸はポドルスキをどうする?

上位陣のなかでは、浦和レッズが良い状態をキープしています。ラファエル・シルバ、興梠慎三、武藤雄樹がかみ合っていて攻撃に迫力があり、得点力があります。個々の選手に打開力もあり、攻撃に引き出しがあります。攻守において良い戦いができていますが、問題はいまの状況がシーズンを通して続くかどうかで、そこが浦和レッズのウィークポイントと言えます。

ただ、今シーズンはこれまで違う傾向が見られ、第7節FC東京戦では自陣に守備のブロックを作る手堅いサッカーで勝利を収めました。試合後にミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「結果を重視した」という趣旨の発言をしたようですが、充実した戦力を持つ浦和レッズが結果を重視した戦いをすれば、さらにタイトルへ近付くと思います。

もちろん、いざやろうしたときにできるかと言えばそうではなく、ある程度積み重ねていかないと安定感は出てきません。そう考えると、今シーズンの浦和レッズは試合によって守備のブロックを作って対応する手堅い戦いを見せることになるのかもしれません。

安定感と言えば鹿島アントラーズですが、J1とACLを戦うタフな日程のなか、既存の選手と新戦力がまだかみ合っていません。とくに、ペドロ・ジュニオールがフィットしておらず、前線から連動してボールを奪うことができていません。しばらくは昨シーズンの選手たちをベースにして様子をみながら、徐々に新しい選手たちを慣れさせたほうが良いと思います。本来は誰が出場しても同じクオリティでなければいけないのですが、ACLでも負けられない試合が続く現状を考えるとそうも言っていられません。

ガンバ大阪は遠藤保仁をアンカーとする新しいシステムで良い戦いをしていましたが、今野泰幸の負傷離脱もあってリズムが少し乱れてしまいました。アンカーの両脇にあるスペースを狙われはじめたことで遠藤保仁自身にもミスが出るようになり、失点につながっています。それでも、このチームには倉田秋、井手口陽介といったポテンシャルの高い選手がいます。長いシーズンを考えると、やはり上位に食い込んでくるでしょう。

ヴィッセル神戸が上位にいられるかどうかは、ネルシーニョ監督が作り上げたいまのサッカーにどうやってルーカス・ポドルスキをはめ込むかにかかっていると思います。[4-4-2]のボックス型なので、守備の負担を考えると中盤では起用できません。2トップの一角なのか、あるいはシステムを変えるのか……。歯車がかみ合わないと、ポドルスキの加入がマイナスになってしまう可能性もあります。戦略家であるネルシーニョ監督が経験、実績ともに十分な“ビッグネーム”をどう使うのかとても楽しみにしています。

こうしてそれぞれのチームを見ていくと、監督の大変さがよくわかります。ときおり、「監督はやらないのですか?」と聞かれるのですが、いまは経験を積んでいる最中で、まだチャレンジできない状況です。理想とするサッカーがあるなか、選手の特徴を考え、現実をみていろいろな判断をしないといけません。サッカーに限らず、どのスポーツでも監督というのは本当に大変な職業だと感じています。

構成/飯塚健司

TheWORLD185号 2017年4月23日配信の記事より転載

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