【特集/欧州4大リーグ気鋭のアタッカー24人 1】個性豊かなセリエA 独自色で主役を勝ち取った猛者たち

ナポリの攻撃出発点 引き立て役にもなれるメルテンス

「リーグ戦は最も失点の少ないチームが優勝する」――。よくイタリアで聞くフレーズだ。実際にそういう側面もあるが、現在は「最も得点の多い3チームが3位までを独占」しており、もちろん攻撃も重要な要素である。セリエAでそれぞれ異なる破壊力を見せる3チーム。その中で、独自の色を放つアタッカーに焦点を当ててみよう。

まずはリーグトップの得点数を誇るナポリでチーム内得点王のドリース・メルテンスだ。ベルギー代表の同選手は、元々左サイドのインシーニェとポジションを争うウイングだった。だが、シーズン序盤にCFのミリクが負傷したことで、ゴールを奪うことが仕事になっている。

身長169cmのメルテンス。当然フィジカルや空中戦では分が悪い。そのため、コンバート当初はもちろん苦しんだ。だが、引いてパスを受ければ多少のプレッシャーがあっても正確に味方にパスをつなぐことができる。寄せが甘ければ、鋭いターンからシュートを狙うことも可能だ。メルテンスの動き出しを起点とした3人目、4人目の動きが相手を混乱させる。
中盤のハムシクは抜群のタイミングで飛び出していく。左サイドで待つインシーニェはキレのある動きで突破を図る。右サイドにはスペースをうかがうカジェホンがいる。左の個人技、右のスペースというナポリの攻撃パターンの終着点がCFだったが、メルテンスという出発点ができたことで破壊力が増した。

覚醒のジェコと万能なナインゴラン ローマを支える2枚看板

ローマといえば、イタリア2年目で爆発しているエディン・ジェコの活躍が光る。一番の変化は得点力だが、それを可能にしているのは彼を中心にチームが構成されているところだ。パスを受けて両サイドにさばき、リターンを受けてゴールにつなげる。昨季途中からローマ指揮官に復帰したスパレッティは、その能力がジェコにあることを信じ、夏から戦術の変更に取り組んできた。選手がその期待に応えた格好である。

さらに注目したいのがラジャ・ナインゴランだ。中盤の守備を締めるのが彼本来の姿だったが、今季はサラーと同じ2列目に置かれている。“ニンジャ”の愛称で知られる彼は驚異の運動量でどこにでも顔を出す。ジェコやウイングの選手が自由に攻撃できるのも、彼のフォローがあってこそだ。もちろん、攻撃でも貢献できるからこその2列目。ミドルレンジからのシュートは威力も正確さも申し分なく、ここまでサラーに次ぐ9点を決めている。ユース時代はトップ下だったというナインゴランは、本当にどこでもこなしてしまいそうだ。

献身性・運動量で新境地開拓 逆境をはね返したマンジュキッチ

ユヴェントスで特徴的なのはマリオ・マンジュキッチだ。こちらはシーズン中盤までベンチ要員だった。夏にゴンサロ・イグアインという大エースがやってきたため、ポジション争いで敗れている。

1月の移籍も噂になっていた彼は、自身の持ち味をいかしてポジションを獲得する。アッレグリ監督に与えられた役割は2列目の左だった。彼の持ち味はもちろん得点力なのだが、その点はイグアインに見劣りしてしまう。だが、献身性・運動量ではユヴェントスの前線で最も優れていたのだ。そのため、左サイドハーフとして守りながら、攻撃に参加することができる。「みんなのお手本になれれば」と本人が語るとおり、彼が走り回る様がチームの尻を叩き、さらなる勝負強さを身につけた印象だ。夏にポグバを放出してイグアインを獲ったユヴェントスは、中盤が減って前線が増えた。前線の人員過多と中盤の不足という2つの問題を一気に解決している。

マンジュキッチの存在を際立たせるのが、右サイドのフアン・クアドラードだ。縦への突破を武器とする彼がいることで、逆サイドのマンジュキッチはゴール前に入る時間がある。アッレグリはこの形をかなり意識しており、多少厳しいタイミングだろうとクアドラードにはボールを中に入れさせているようだ。中央に走り込むのがイグアインとマンジュキッチであれば、そういったボールでも得点につながる。このボールを跳ね返されたとしても、相手の中盤の戻りが遅ければ、ディバラに大好物のセカンドボールがやってくる。

ユヴェントスはマンジュキッチとクアドラードが先発した15試合で13勝しているというデータが紹介された。もともと強かった王者は、マンジュキッチの献身性・運動量による相乗効果でさらに安定感が増している。

セリエAでゴールを量産している3チームは、基本となる戦い方も得点パターンも全然違う。状況に応じて適切な戦い方を発見して主役を代えてきたからこそ彼らは上位にいる。ジェコは今季とおして存在感を示しているが、メルテンスとマンジュキッチは開幕時とはまったく異なる形でブレイクした。シーズン終盤戦にそういった選手が登場するチームは出てくるだろうか。

文/伊藤 敬佑

イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。

theWORLD184号 2017年3月23日配信の記事より転載

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