【特集/欧州4大リーグ気鋭のアタッカー24人 4】覇権と欧州への切符を引き寄せる新旧ストライカー

新戦力から刺激を受け生まれ変わったエース

絶妙のセンスでマーカーとのポジショニングにまさり、ワンタッチ、もしくはツータッチでシュートを放つ。空中戦の際も瞬時にセカンドボールに反応。セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)は類稀なる嗅覚で体格のハンデを補ってきた。大型化する今日のフットボール界において、身長173cmの彼が得点を量産してきた努力は並大抵のレベルではなかったはずだ。ところが、突如として立場が危うくなってきた。

この1月、ブラジルのパルメイラスからシティにやって来たガブリエウ・ジェズスは運動量や守備意識など、ジョゼップ・グアルディオラ監督がFWに求める要素をすべてクリアし、ポジションを確立しつつあった。そして1月28日のFA杯、クリスタル・パレス戦を皮切りに、4試合にわたって先発から外れたアグエロは「レアル・マドリード移籍か?」、「シーズン終了後の退団は確実」と多くのメディアが推測をもとに報道した。エースストライカーが2番手にランクダウンしたのだから、無理もない反応だった。

それでも、アグエロにチャンスが訪れる。2月13日のボーンマス戦(プレミアリーグ)でジェズスが右足中足骨を骨折。今シーズン絶望の重傷だった。ふたたび1番手となったアグエロは、明らかに変わっていた。プレスバックの意識が強くなり、攻守の切り替えも鋭くなっている。周囲と連携してボールを奪い、高い位置でのカウンター発動にも頻繁に絡むようになってきた。おそらく、ジェズスの台頭で尻に火がついたのだろう。従来の攻撃8:守備2といったイメージではなく、攻守ともに全力を傾けるようになってきた。もちろん、得点感覚も錆びついてはいない。どうやら、ジェズスの加入は格好の刺激になったようだ。元来が爆発力のあるストライカーだけに、1ヶ月で2桁の荒稼ぎも十分に可能だ。3シーズンぶりの得点王も、決して不可能ではない。

衰え知らずのサンダーランドのエース

アグエロ同様、ジャーメイン・デフォー(サンダーランド)も体格には恵まれていない。公称171cm。しかも10月で35歳になる。ただ、スピードは依然として衰えを知らず、一瞬にしてマーカーを置き去りにするケースも少なくない。さらに、自陣深めのライン設定がチームの基本であるため、チャンスも限られているのだが、27節終了時点で13得点・2アシスト。サンダーランドがあげた総得点24の62.5%に関与していた。

ウェストハム、ボーンマス、ポーツマス、スパーズを渡り歩き、MLSのトロントにたどりついたときは「いよいよ余生か」と感じられたが、昨シーズンに新天地を求めたサンダーランドで健在ぶりを見せつけている。フットボーラーの資質は、若さとか体格だけではないのである。なお、デフォーは3月下旬のインターナショナルウィークで、イングランド代表にも3年4ヶ月ぶりに返り咲いた。

存在感抜群のベテラン

マンチェスター・ユナイテッドのズラタン・イブラヒモビッチも、衰える気配すらない。今年10月で36歳。ファイティング・スピリットはますます旺盛で、そんじょそこらの若手DFを視線で射殺す。あの鋭い眼光でにらまれ、「やるじゃねえか、若造」とでもすごまれたら、小便もちびるというものだ。

さて、今シーズンのイブラヒモビッチは決定機を逸するケースも少なくない。11節以降のユナイテッドが6位に定住している要因のひとつにも挙げられる。しかし、彼を欠いた場合の攻撃陣はスピードアップこそすれ、相手チームに対するプレッシャーは激減する。イブラヒモビッチがバイタルエリアに、ペナルティエリアにたたずんでいるだけで、マーカーは背筋に冷たいものを感じるはずだ。この男ならではの存在感のなせる業。だからこそ、ジョゼ・モウリーニョ監督も全幅の信頼を寄せ、毎試合のように先発リストに「ZLATAN IBRAHIMOVIC」と書き込んでいるのだろう。

3月4日のボーンマス戦でPKを失敗。ゴールレスドローに終わった後、イブラヒモビッチは不敵にもこう言った。

「敗因は全てオレにある。監督やチームではなく、オレを批判しろ」

恐ろしいまでのプロ意識。実績豊かな男の発言には若手は畏敬の念を抱き、その背中から何かを感じ取る。数年後も踏まえ、ユナイテッドはたくましい男を獲得したものだ。

次世代を担う未完の大器

実績、知名度まではアグエロ、デフォー、イブラヒモビッチに劣るものの、今シーズンの得点王レースをリードしているのがハリー・ケイン(トッテナム)とロメル・ルカク(エヴァートン)だ。ともに190cm近い大型で、なおかつスピードもある。ワールドカップやチャンピオンズリーグなどの大舞台で活躍すれば、たちまちトップスターの座を手にする逸材だ。そう、実は両選手ともに、ビッグマッチではまだ一度も輝いていない。

ケインはトップ6との直接対決ではまだ1ゴールしか奪えず、しかもアーセナル戦のPKだけだ。ビッグマッチ特有の雰囲気に委縮しているのか、ボールコントロールもズレる。こうした欠点はイングランド代表でも顕著であり、昨夏の欧州選手権は散々のできだった。また、ルカクも上位との対戦では封じられるケースが少なくなく、エヴァートンのロナルド・クーマン、ベルギーのロベルト・マルティネス監督ともに、「精神面の強化とオフ・ザ・ボールの動き」を課題に挙げていた。

しかし、ケインとルカクが大器であることは周知の事実であり、数多くのビッグクラブがスカウトを派遣している。両足を巧みに使いこなし、ストロングヘッダーでもあるケインにはユナイテッドとレアル・マドリードが熱い視線を送り、世界最強のフィジカルと世界有数の柔軟性を誇るルカクはチェルシーが買い戻しを図り、既にパリ・サンジェルマンが高額のオファーを届けたともいわれている。仮に代理人発信のゴシップだとしても、両選手が移籍市場の中心になりつつあることだけは間違いない。

新旧のストライカーが高いレベルで争う得点王レースは、チャンピオンズリーグの出場権をめぐる激しい攻防とともに最終盤の注目点だ。プレミアリーグの熱い戦いは、まだまだ続く。

文/粕谷秀樹

サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

theWORLD184号 2017年3月23日配信の記事より転載

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