【特集/UCLラウンド16プレビュー 5】鍵を握るのはプレッシング どちらの守備戦術が相手を凌駕するのか!? レヴァークーゼン×アトレティコ

アトレティコが誇る闘将シメオネ photo/Getty Images

アトレティコを率いる闘将シメオネ photo/Getty Images

攻守の切り替えの速さが焦点に

片手をヒモで縛り、もう片方の手にナイフを持って斬り合うような試合。レヴァークーゼンとアトレティコ・マドリードの一戦は、そのようなゲームになるのではないか。
ともに強みは守備力にある。アトレティコは基本的にサイドから攻撃する。中央からの攻撃やサイドチェンジをほとんど使わず、サイドを攻めきろうとする。これはボールを奪われても、その後の守備がやりやすいからだ。中央で失えば、一気に相手のカウンターアタックを許す危険があるが、サイドならば素早く守備に切り替えることで相手の出口を封じて奪い返すことができる。まず守備、そのうえでの攻撃という考え方なのだ。アトレティコには攻撃力のあるファンフラン、フィリペ・ルイスの両サイドバックがいるMFのコケやカラスコと連係して、サイドを縦へ縦へと切り崩していく推進力は素晴らしい。
しかし、狭いサイドを攻めきるのは簡単ではなく、レヴァークーゼンは相手をサイドへ追い込んでボールを奪うことを得意としている。もちろん、アトレティコもサイドでの封じ込めと複数での囲い込みは十八番。つまり、サイドでの攻防は激烈になると予想できる。ボールがどちらに転がるかはわからない。一瞬のミス、偶発的な何かが試合を決める1点につながりかねない、そんな緊張感の中で互いに体を張った、一歩も引かないコンタクトプレイの応酬になりそうだ。

 “引いた”相手の攻略に課題を残すアトレティコ

変幻自在なドリブルで敵陣を切り裂くカラスコ photo/Getty Images

変幻自在なドリブルで敵陣を切り裂くカラスコ photo/Getty Images

3シーズンで2回、決勝に進出したアトレティコはいずれも宿敵のレアル・マドリードに苦杯を喫した。レアル自慢の攻撃陣に鉄壁を破壊されたわけではない。ボールを持たされ、崩しきれなかったのが敗因である。課題は攻撃力の増強だ。 シメオネ監督はコケの中央への配置、カラスコの突破力を生かす、ガメイロの動きで作ったスペースにグリーズマンを潜り込ませるなど、いくつかの手を打ってきた。ただ、どれも決定的な解決策にはなっていない。前線からのプレッシングを強化し、より前方でボールを奪う守備へのシフトも行っている。
ところが、この部分ではレヴァークーゼンのほうが一枚上手なのだ。アトレティコは2トップの1人が相手のセンターバックへのプレス、もう1人がアンカーポジションを抑える守り方をする。ボールがセンターバックの間で動けば、今度はセンターバックへプレスしたFWがアンカーへ、アンカーをマークしていたFWがボールへと動くことになる。しかし、この方法だとFWの消耗が激しく長い時間は続かない。結局はFWが下がってハーフウェイラインからブロックを作って守ることになる。

緻密なプレッシングを実践するレヴァークーゼン

狭いスペースを苦にせずに局面を打開するブラント photo/Getty Images

狭いスペースを苦にせずに局面を打開するブラント photo/Getty Images

2トップがアンカーへのパスをケアするレヴァークーゼン photo/Getty Images

2トップがアンカーへのパスをケアする

一方、レヴァークーゼンは2トップが相手センターバックに対峙しながらアンカーへのパスを切る。アンカーポジションにいる相手はフリーにしているが、そこへはパスが入らないように締めて守る。相手のアンカーをフリーにしているぶん、後方は1人の数的優位を確保して、きれいにマッチアップさせることができる。相手はセンターバック間のパスは通せるが、そこから前へのパスを通しにくい。ドリブルで前進しても、レヴァークーゼンのFWの守備範囲に入ってしまうだけで、アンカーへのパスコースは切られたまま。レヴァークーゼンのFWはさほど消耗しないので、前線からのプレスを長い時間機能させられる。ハーフウェイラインあたりから、こうした守り方をするチームは多いが、レヴァークーゼンは前線からのプレスにも使っている。レヴァークーゼンとアトレティコは、ともに強固な守備力を誇るが、前線からのプレスに関してはレヴァークーゼンのほうが持続性があるぶん有利といえる。時間の経過とともに、アトレティコはレヴァークーゼンのビルドアップを阻止できなくなる可能性があるわけだ。

ただし、そうなってもアトレティコはリトリートしての守備が強固であり、そこからのカウンターのほうがむしろ得意な戦い方でもある。引かされるのは今季の課題克服という点では本意ではないが、本来の戦い方に回帰できるという点でレヴァークーゼンはやりにくい相手ではない。レヴァークーゼンの前線プレスを外して前進して得点を重ねられれば、アトレティコにとっては理想的な展開だが、そうならなくても相手にボールを持たせておいてカウンターのチャンスはある。レヴァークーゼンは前線プレスで奪って得点に結びつけられれば、狙いどおりの展開である。むしろアトレティコがボールを放棄したほうがやりにくい。アトレティコは、自らが直面している課題をレヴァークーゼンに突きつけてしまうのが得策かもしれない。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD182号 2017年1月22日配信の記事より転載

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