【特集/今、欧州4大リーグで目が離せない46人 1】世代交代の波とともに激しさを増すプレミアリーグ

潜在能力はお墨付き ブレイク間近のヤングスター

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14年1月にナイジェリアのアカデミーからやってきたケレチ・イヘアナチョ photo/Getty Images

マンチェスター・ユナイテッドのマーカス・ラッシュフォード、アーセナルのアレックス・イウォビなど、今シーズンのプレミアリーグも若手が台頭しているが、最も注目すべきはマンチェスター・シティのケレチ・イヘアナチョだ。ライン間でボールをもらう動きに関しては、ジョセップ・グアルディオラ監督をして「教えたことをすぐにマスターできる吸収力には目を見張るものがある」と絶賛するほどだ。ポジションを争うライバルがセルヒオ・アグエロであるため、先発メンバーに名を連ねる機会は限られるものの、指揮官の高評価は選手間の信頼度に直結する。試合終盤ではジョーカーとして、アグエロ不在の際には貴重なアイテムになりうるはずだ。巨大戦力を誇るシティでも、イヘアナチョが異彩を放つ日は必ずやって来る。

さて、プレミアリーグは“世界で最強のタフネス”と表現して差し支えない。2000年代初期のアーセナルを支えたロベール・ピレスが、「プレミアリーグ仕様のフィジカルを装備するため、3年もかかった」と証言している。ところが、移籍初年度でフィットした選手がいる。リヴァプールのサディオ・マネとチェルシーのマルコス・アロンソだ。たしかに前者は昨シーズンまでサウサンプトンに所属し、後者もボルトン・ワンダラーズやサンダーランドでプレミアリーグを経験している。しかし、マネはリヴァプールの高速フットボールに、M・アロンソはチェルシーの3-4-3に即対応した。戦略・戦術の変更を苦にしない適応能力の高さが、両選手のストロングポイントだ。

ユナイテッドではエリック・バイリーである。彼はプレミアリーグを経験せず、世界の耳目が集まる名門にスペインのビジャレアルから移籍してきた。環境の激変どころではなく、生活のリズムが根本的に覆されたといっても過言ではないはずだ。それでもバイリーはプレミアリーグ特有の激しい当たりを楽しみ、瞬く間にユナイテッド守備陣の軸と呼ばれるまでになった。選手個々に対する注文が厳しいジョゼ・モウリーニョ監督も、このセンターバックだけには賛辞を惜しまなかった。「4000万ユーロ(約46億円)もの移籍金も高くはなかったな」。

絶賛、赤丸急上昇中! 名将が才能を開花させた大器

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テクニシャンでありながら献身的なプレイもできるフィルミーノ photo/Getty Images

プレミアリーグで2シーズン目を迎え、飛躍的に成長した選手がいる。シティのケビン・デ・ブライネとラヒーム・スターリングだ。もともと才能に恵まれ、昨シーズンもそれなりには活躍したとはいえ、マヌエル・ペジェグリーニ監督が選手の自主性を偏重し、微細な決まり事すら設けていなかったため、経験不足の若手は行き詰まっていたようだ。なにをしても批判されない、評価もされない……。

しかし、今シーズンからシティの監督に就任したグアルディオラは口うるさかった。とくに攻守の切り替えに関してはシビアで、アグエロでさえプレスバックを怠ったときはロッカールームで叱責されたという。この厳しさが、デ・ブライネとスターリングにはプラスだった。アグエロにも容赦をしない指揮官に畏怖を覚え、なおかつ的確なアドバイスにより、両選手ともにプレイの幅が拡がったようだ。とくにスプリントである。回数、密度、タイミングなど、昨シーズンまでとは比べものにならないほど充実している。だれもがうらやむ才能に、世界一の名将がエッセンスを注入した。今後の成長が楽しみである。

また、リヴァプールのロベルト・フィルミーノとサウサンプトンのフィルヒル・ファンダイクも、2シーズン目で飛躍したタイプだ。マージーサイドの古豪を率いるユルゲン・クロップのフットボールは尋常ではない運動量を必要とするため、ラテン系の選手には不向きとされてきたが、フィルミーノはつねに走り続け、トップ、サイド、インサイドMFでも機能している。そしてファンダイクは高さ、強さ、ポジショニング、フィード能力、リーダーシップと、近代センターバックに必要とされる要素を完備しており、マンチェスターの2チームが早くも代理人とコンタクトを図ったとの情報も入手した。来年1月、ファンダイクがビッグクラブに移籍したとしても不思議ではない。

名人芸の風格さえ漂う ベテランたちのポイント

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長短のパスを使いこなし中盤の底からチャンスメイクするキャリックphoto/Getty Images

三十路も半ばを迎えると、からだの回復が遅くなる。フィジカルの向上など夢のまた夢だ。しかし、メディアもサポーターも容赦はしない。18~19歳の若者と同等に扱われる。「ガキと同じにするんじゃねえよ」と愚痴っても、戦場ではだれもがひとりの兵士だ。

WBAのギャレス・マコウリーは、来月で37歳になる。引退が視野に入る年齢を迎えるにもかかわらず、195センチの長身を利し、ゴール前でエアバトルを挑みつつける。若いころに比べると、空の勝率は低くなっているかもしれない。試合終盤になると、ジャンプに無理が利かなくなってきた。それでもマコウリーは空の闘いに活路を見いだす。モダンではないけれど、武骨なセンターバックは己が生き残る術を熟知している。オールドファッションがすがすがしい。

ユナイテッドのマイケル・キャリックも35歳。まさにいぶし銀だ。精度の高い縦パスで攻撃をコントロールし、今シーズンはヨーロッパカップで存在感を見せつけている。インテンシティとかスプリントとか、近代フットボールのキーワードとは無縁だが、相手DF陣の隙を見極める状況判断力は一種の名人芸だ。若手には真似のできない味わいがある。「 監督に行けといわれれば、毎試合でも闘えるさ」表情ひとつ崩さず、キャリックは語った。この自然体こそが、彼ならではの魅力でもある。

文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

theWORLD 2016年12月号の記事より転載

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