名良橋晃の定点観測♯26「ハリルJの方向性に提言。日本サッカーが持つ長所をもっと生かすべき」

一本筋を通さないと、観戦者に不信感をもたらす

10月にロシアW杯アジア最終予選が開催され、日本代表は6日にイラク、11日にオーストラリアと対戦し、1勝1分けで勝点4を獲得しました。まずイラク戦についてですが、ロスタイムに山口蛍の決勝ゴールが生まれて2-1で競り勝ちました。良い表現をすれば劇的な勝利でしたが、内容で判断するとどちらが勝っていてもおかしくない一戦でした。

最終予選は結果がすべてなので勝点3を取れたのは良かったですが、試合中にはいろいろなことがありました。日本代表が先制点を奪った場面では、本田圭佑から清武弘嗣へパスが出されたときはオフサイドのようにも思えました。さらに、決勝点を奪ったときはイラクの選手がひとりピッチの外に出ていて数的有利な状況でした。

イラクの選手がレフェリーに「外に出ている選手を戻してくれ」と訴えていましたが、認められませんでした。山口がフリーでシュートを放ったことを考えると、もしあの選手がピッチに戻っていて11対11だったら……と考えてしまいます。勝利こそしたものの、前回のUAE戦と同じく判定に疑問を持つ試合となりました。
しかし、内容をみればイラクが前に出てきたことでなかなか攻めのカタチが作れず、ロングボール一辺倒の淡白な攻撃になっていました。ボランチでプレイした柏木陽介の頭上をボールが越えることが多く、彼の能力をうまく引き出すことができませんでした。イラク戦に限らずホームゲームのときにいつも感じるのですが、日本代表は攻め急ぎ過ぎていて攻撃のカタチに変化がなく、相手に守備のリズムを与えてしまっています。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が指向する縦に急ぐスタイルを忠実に実行しようとするあまり、日本の良さが消えてしまっています。

いろいろな考え方があると思います。ブラジルW杯でグループリーグ敗退に終わったことで、パスをつないでボールポゼッションをするスタイルから、世界のトレンドである縦に速いサッカーを追求するべくハビエル・アギーレ前監督を招聘しました。予期せぬアクシデントで続投が難しくなり、新たに招いたのがハリルホジッチ監督でした。

こうした過程を経るなか、日本代表の持ち味だったショートパスを正確につないでボールポゼッションするスタイルが徐々に見られなくなり、いまは消えかかっています。日本代表が目指す方向性を決めるのは日本サッカー協会(JFA)で、代表監督と契約するときにそういう話しもしているはずです。むしろ、一番重要なポイントです。

W杯と同じ4年周期で監督が変わり、それとともに強化の方向性も変わってしまうのはどうなのでしょうか? このまま現在のスタイルで強化を続けていき、監督が変わったらまた方向性が変わるということでは日本サッカーの芯となる部分、ベースがなかなか根付きません。正直、私のなかには日本サッカーはいったいどこを目指しているのかという疑問が芽生えてきています。一本筋を通さなければ、見ている方に不信感をもたらしてしまうと思います。

攻撃のカタチが明確ではなく、今後も苦戦は避けられない

オーストラリア戦はスタメンを確認できた時点で、守備を重視して戦うのだなとわかりました。左サイドバックにセンターバックもできる槙野智章を起用したのはセットプレイ対策もあったと思います。ボランチにも守備力のある2人が起用され、相手に素早く身体を寄せることでボールを奪えていました。オーストラリアが長いボールを蹴ってこなかったことで、前半は相手にボールを持たせる狙いがうまくハマっていました。

とはいえ、もともとここ数年のオーストラリアは長いボールを蹴るよりもパスをつなぐ傾向がありました。2015アジアカップに優勝したときやロシアW杯予選を見ているとつなぐチームという印象があり、前半はそのとおりの攻撃を仕掛けてきました。このスタイルの相手で、なおかつこの日のオーストラリアぐらいのレベルだといまの日本代表でもしっかりと戦えることがわかりました。

ところが、後半になるとオーストラリアがガラッと変わり、両サイドバックが高いポジションを取ってより攻撃的になり、アンカーの選手が深いポジションを取ることで3バックのようなカタチで攻めてきました。これに対応できず、後半早々に日本代表の右サイドを崩され、中央へ展開されてPKを与えてしまいました。酒井高徳が前方へ引き出され、その後方のスペースを狙われたプレイに端を発しており、その流れのままゴール前での対応も遅れ、慌てて戻ってきた原口元気がファウルを犯してしまいました。

このシーンもそうなのですが、いまの日本代表は相手の出方をしっかりと見極め、攻守両面で臨機応変にプレイすることができていません。ハリルホジッチ監督のもと“デュエル”の強化に努めている日本代表ですが、1対1の競り合いに弱いのは日本サッカー界に以前からある課題で、これまでは数的有利な状況を作ることで補ってきました。この数的有利を作るという意識が薄まってきていると感じます。

個々の選手が1対1の競り合いに負けないようにするのは大事なところで、もちろん強化に励まないといけないポイントです。ただ、意識するあまり各選手の距離間が遠くなっているのが現状で、複数の選手が連動したプレイ、攻撃なら2人、3人がからんでショートパスをつないで崩すような場面が減り、日本代表が本来持っているストロングポイントが消えかけています。

オーストラリア戦には1-1で引き分けましたが、いまのスタイルで最終予選を勝ち進めるほど日本代表は高いレベルに達していないと思います。積極的に前に出てくる相手との対戦ならハマるかもしれませんが、アジアでは多くの相手が守備を固めてきます。その相手を崩す攻撃のカタチが明確ではない以上、今後も苦戦することが予想されます。
2002日韓W杯のときは、フィリップ・トルシエ監督の代名詞だったフラット3を実践していく中で、選手自身たちが修正しベスト16進出を成し遂げました。同じように、選手たちが判断して戦い方を変えていっても良いと思います。ボールを動かしながら、ピッチを広く使って左右に揺さぶり、サイドや中央から突破を仕掛ける。1本の糸で全員がつながったような連動性が大事です。

11月15日にはホームでサウジアラビアと対戦します。グループBの首位に立つ相手との対戦で、この一戦が終わると最終予選の半分を消化したことになります。9月、10月の連戦とは違い、今回は事前にオマーンとの強化試合(11日)が組まれています。この準備となる一戦にどんな布陣で臨むのか、いまから楽しみにしています。ケルンで好調な大迫勇也を起用するなど、現状を打破するなんらかの変化が感じられたらいいなと思っています。

構成/飯塚健司

theWORLD179号 2016年10月23日配信の記事より転載

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