【特集/プレミア6強戦国時代2】クロップ招聘から1年…… 上昇曲線を描くリヴァプールの現在

成功の始まりは、前任と“真逆”のカリスマ招請

成功の始まりは、前任と“真逆”のカリスマ招請

リヴァプールで10番を背負うコウチーニョ photo/Getty Images

近代フットボールにおける成功のキーワードとして、“走力”が挙げられる。選手個々のポテンシャルではレアル・マドリード、バルセロナに劣るアトレティコ・マドリードがラ・リーガ、チャンピオンズリーグで好成績を挙げ続けている最大の要因は、スピード、スタミナ、スプリントの三要素がすべてそろった走力であることに疑いの余地はない。

昨年10月まで、すなわちブレンダン・ロジャーズ(現セルティック監督)体制下のリヴァプールは、ポゼッション志向が強すぎた。しかも、ボール扱いが不得手な選手にも高度な繋ぎを強いるため、うまくいくはずがない。選手の個性を軽視し、監督の理想を押し付けた結果、ロジャーズ体制は崩壊した。

後任はユルゲン・クロップである。ポゼッションよりも走力と闘争本能を重視する、情熱系の監督だ。この人事によって、リヴァプールは上昇曲線を描いていった。理論に偏りすぎたロジャーズと異なり、クロップの指導は簡潔だったという。キャプテンのジョーダン・ヘンダーソンが、次のように証言している。
「情熱とか連帯感とか、闘ううえでもっとも重要な要素についてのアドバイスが多いし、言葉の選択が絶妙だ。ミーティングでも、監督が話しているときはつい聞き入ってしまう」

いわゆる“カリスマ”なのだろう。27年に渡ってマンチェスター・ユナイテッドを率いたアレックス・ファーガソン元監督同様に、クロップも人心掌握に優れているということだ。この、人間的な魅力があるからこそ、リヴァプールの選手たちは激しく攻め、守り、闘い続けられるのではないだろうか。ただ、就任当初からすべてが順調だったわけではない。

1年をかけて哲学を浸透させた

1年をかけて哲学を浸透させた

2015年10月からリヴァプールの指揮を執っているクロップ photo/Getty Images

昨シーズンは好不調の波が非常に激しく、マンチェスター・シティを4-1で叩きのめしたかと思えば、ワトフォードに0-3で敗れるなど、世界中のサポーターをやきもきさせていた。なにかと現場に口を出す傾向が強いOB連も、「クロップは過大評価されている」と批判していた。しかし、監督の哲学が浸透するまでには時間がかかる。昨シーズンの敗戦は、ロジャーズの考え方を捨てきれなかった数人の選手が、要するにボールを持ちすぎる一部の選手が、クロップのポリシーを妨げていた、といって差し支えない。チーム内で共通理解を得られていなかったのだから、パフォーマンスの不安定はやむを得ないだろう。

だからこそクロップは、攻守の切り替えに難があり、走力にも一抹の不安があるクリスティアン・ベンテケを、夏の市場でクリスタルパレスに放出した。ダニエル・スタリッジが定位置をつかめない理由も、故障癖という不治の欠点も災いしているのだろうが、走力で劣っているからだ。また、相手ボールになった瞬間の反応でもロベルト・フィルミーノ、フィリペ・コウチーニョといったブラジル勢にも大きな後れを取っている。

民族性を踏まえれば、基本的には真面目なイングランド人のスタリッジの方が、なにかにつけて楽天的なブラジル人よりもクロップのフットボールには適しているようにも感じられるが、首脳陣はスタリッジよりもブラジル勢を高く評価している。ここが、リヴァプールのポイントだ。

昨シーズンまでは体力的な不安を指摘されていたアダム・ララーナが重用されているのは、サマーキャンプで徹底的にフィットネスの強化に取り組み、90分間フル稼働できる肉体を造ったからだ。組織的パフォーマンスに対するアプローチも、スタリッジとは大きく異なる。先述したふたりのブラジル人、ヘンダーソン、そしてサディオ・マネといった主力も同様だ。絶え間のないトランジションを求めるクロップが監督を務めている限り、走力と守備意識に欠けるタイプはポジションをつかめないということだ。

リーグを獲るには最終ラインの強化が必須事項

リーグを獲るには最終ラインの強化が必須事項

ララーナはクロップの下で進化を遂げた photo/Getty Images

さて、クロップの基本システムは4-3-3。相手側ボールホルダーがファーストタッチを誤ったり、パスを受ける姿勢が悪かったりした場合、最短距離に位置していた選手がプレスをかける。この動きに伴い、数人の選手がパスコースを予測しながら、ボール奪取。そして奪った後が非常に速く、複数のパスコースを創りながら相手ゴールに殺到する。クロップ体制2シーズン目を迎えたいま、攻撃は共通理解を得られるようになってきた。

ただ、後方からのビルドアップは依然として凡庸で、とくにセンターバックはだれが起用されても前線、中盤とリンクできず、クロップがその名を高めたボルシア・ドルトムントのプレッシング・フットボールと肩を並べるまでにはかなりの時間が必要だ。本来はMFであるジェームズ・ミルナーが左サイドバックの第一選択肢である事実(彼の奮闘は特筆に値するが……)も含め、指揮官の理想を実現するには最終ラインを強化しなくてはならない。現有勢力で満足していては、27シーズンぶりのリーグタイトル奪還は厳しい。来年1月の市場でも、大胆なテコ入れが必要だろう。

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