ハリルJは日本サッカーが蓄積してきたものの上で戦えているのか?

いまの日本代表は自ら“谷”を作り出している

いまの日本代表は自ら“谷”を作り出している

インタビューに応じるハリルホジッチ監督 photo/Getty Images

どうも歯車がうまくまわっていない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はオーストラリア戦の前日会見で「W杯予選は山あり谷ありなので、いろいろなことが起こる」と語っていた。日本サッカーには積み重ねてきた歴史があり、W杯アジア最終予選の難しさ、厳しさは普段サッカーを見ない人のなかにもおそらくすでに浸透している。悔しい思いをしたことがあれば、歓喜したこともあった。苦戦した原因、勝利した要因はさまざまで、それらひとつひとつが貴重な経験として日本サッカーの財産となっている。

ロシアW杯を目指すいまの日本代表は、これまで積み上げてきたものの上で戦えているだろうか? 監督が変われば目指すスタイルは変わるものだが、方向性を定めるのは雇い主である日本サッカー協会(JFA)で、ハリルホジッチ監督は自身の信念に基づいて強化を進めているに過ぎない。

世界トップクラスの強豪国を倒すためには、なにをしなければならないか。ハリルホジッチ監督には自身のなかに多くの経験が蓄積されていて、2014ブラジルW杯ではアルジェリアを率いてベスト16に進出している。この指揮官の経験と、日本サッカー界が積み上げてきた経験を融合させて日本代表の強化を進めていくべきだが、いまはこれまで蓄積してきた日本サッカーの良さよりも、ハリルホジッチ監督が指向するスタイルが全面に出ていて安定感がなく、ときおり違和感さえ覚える。
無論、チームは監督のもので好きなように強化を進めていい。求められているのは勝利で、「これが勝つために最適」と監督が決断したものは絶対で、むしろそこにブレがあってはならない。そういった意味で、ハリルホジッチ監督の考えは揺らぐことがなく(見込みの甘さはあったが方向性に変化はない)、選手たちも指揮官の期待に応えようと必死にプレイしている。与えられた環境、条件のなかでハリルホジッチ監督も選手たちも自分の役割を懸命にこなそうとしており、そこに妥協は感じられない。

問題はチーム作りの最初の出発点であるハリルホジッチ監督が「これが勝つために最適」と考えているスタイルが日本サッカーとマッチしているかどうかだ。JFAとの間でそこに齟齬があると、最終的に良い結果を得るのは不可能だ。チームとして最高のパフォーマンスを発揮できないまま戦い続けて勝利を積み重ねられるほど、W杯アジア最終予選は簡単ではない。しつこくて申し訳ないが、その難しさは日本サッカーを見てきた者なら誰もが知っている。

日本人サッカー選手の特徴はどこにあるか、もう一度しっかり確認したほうがいい。その特徴が失われてきた選手は、自然の流れとしてより良い選手へと入れ替わっていくのが代表だ。チームの屋台骨となる目指す方向性や指針は変えず、その都度新しい血(選手)を入れて継続性のある強化を続けていく。本来そうすべきところ、いまは目指す方向性や指針に変化がみられる一方で、選手の顔ぶれはほぼ変わっていない。ここに、歯車がうまくまわっていないと感じる原因がある

メディアの人間がそう感じるのだから、JFAはもっと違和感を覚えているはずだ。選手にとっても、ほぼ同じメンバーでありながら積み上げてきたものと違うことを求められるのは負担となる。予選は山あり谷ありなのはたしかだが、いまの日本代表は自ら谷を作り出しているように思えて仕方ない。

いまの日本代表は観戦者が違和感を覚える戦いをしている

いまの日本代表は観戦者が違和感を覚える戦いをしている

オーストラリア戦で、良い意味でも悪い意味でも全得点に絡んだ原口 photo/Getty Images

敵地でのサウジとの死闘(△2-2)から長い移動のすえに日本代表との対戦を迎えたオーストラリアは、明らかに日本よりもコンディションが整っていなかった。ロビー・クルーズ、マシュー・レッキーという攻撃で重要な役割を担う両名が揃ってベンチスタートとなり、チーム自体も立ち上がりから動きが鈍かった。

相手が見せたスキを逃さず、日本代表は開始5分に先制点を奪うことに成功した。その後は準備してきたとおりに自陣に守備のブロックを作り、カウンターから追加点を狙うサッカーを遂行した。「(オーストラリアが)予想していたよりボールを蹴ってこなかった。もう少し長いボールを使ってくると思っていたので、それがないぶん助かった」と語ったのは吉田麻也で、前半はほとんどチャンスを与えなかった。1点を追いかける相手がムリをしないサッカーを選択したため、試合はまったりとした展開で進んだ。

しかし、オーストラリアが後半になってペースを上げてくるのは明白で、クルーズとレッキー、そしてティム・ケーヒルが入ってきてからが勝負だった。ところが、53分に左サイドを突破されてクロスを折り返され、ペナルティエリア内で対応した原口元気が後方から倒してPKを与えてしまう。原口のタックルは前半からレフェリーに目をつけられており、もう少しクレバーな対応をしてほしかった。原口に限らず、最近の日本代表は自陣でファウルを犯すことが多く、この日も前半からオーストラリアに度々FKを与えていた。セットプレイからの失点が多いのだから、いかにデュエルで負けないことが大事といっても相手にFKを与えない守備を心がけるべきだろう。

その後は予定どおりに選手交代をしてきたオーストラリアに対して、カウンターを仕掛ける活路を見出せずに劣勢を強いられた。「相手にボールを支配させるという意味では、前半はちょっとだけいいところがあった。だけど、後半は支配される立場に変わった」と試合後に分析したのは本田圭佑である。

後半になって先手先手で動いてきたオーストラリアに対して、追いつかれた時点で日本代表は「同点にされてビジョンを変更しなければならなくなった」(ハリルホジッチ監督)という状況に陥った。結果、前線でボールを引き出すことができなくなっていた本田から浅野拓磨への交代が遅くなり、マイボールになってもパスコースがないことで守備に奔走する時間が続いてしまった。

敵地での1-1という結果をどう受け止めるかは人それぞれだ。ハリルホジッチ監督は終了間際に原口に変えて丸山祐市を投入し、セットプレイから失点しないことを重視した。この交代だけでなく、後半終盤まで最初の選手交代を行なわず、劣勢のなか耐え抜いているチームに手を加えることをせず、積極的に勝利をつかみ取る選択はしなかった。

前述したとおり、チームは監督のもので好きなように戦っていい。求められるのは結果で、オーストラリア戦では最低限必要だった勝点1をもぎ取っている。ただ、いま遂行するスタイルが本当に日本代表に合っているのかどうか、もう一度よく考えてみる必要がある。監督は自身の信念に基づいて強化を進めている。招集された選手たちはそのときのベストを尽くして監督の指向するサッカーをピッチで表現しようとしている。ところが、実際は観戦者がいろいろな違和感を覚える戦いを続けている。いまの日本代表は、やはり歯車がうまくまわっていない状況である。

文/飯塚健司

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