UAE戦での2失点を振り返ると、いずれも危険なポジションでボールを失ったことに原因があった。前半の失点はFKを直接決められたもので、これにつながるファウルは吉田麻也が犯している。
このプレイをさらに遡ると、センターライン付近での大島僚太から酒井宏樹へのパスが弱くなり、慌てた酒井宏樹が相手に当ててマイボールにしようとしたキックが雑になり、UAEの選手へボールが渡っている。「相手にぶつけてマイボールにしようと思った。もっとしっかり当てないといけなかった」と試合後に語ったのは酒井宏樹である。
後半に許したPKは3対1という数的有利な状況にも関わらず平常心で対応することができずにファウルを犯したものだったが、指揮官の教えとボールの取られ方を考えると選手たちが慌てるのも仕方なかった。
自陣のぺナルティエリア付近でボールを持った長谷部誠が相手にパスしてしまい、危険なエリアで不測の事態を招いた。いまの日本代表はヴァイッド・ハリルホジッチからボールを奪われたらすぐに奪い返すことが徹底されている。
すぐに奪い返して、攻撃へ移行しないといけない。こうした意識が働いたことで、有利、不利の判断を冷静に下すことができず、3人で囲んでいるにも関わらずPKを与えてしまった。言われたことを忠実に守ってプレイするのが日本人選手の良いところだが、一方で指示を意識するあまり自由な発想や瞬時に的確な判断を下す柔軟性をなくしてしまうという欠点も抱えている。
言ってしまえば、1点目のFKにつながった酒井宏樹のプレイも一度ディレイし、相手にボールを渡してしっかりと守備の態勢を整えて対応しても良かった。しかし、プレイスピードを速く、縦に素早くという意識が身体と頭に刷り込まれているため、中途半端にボールを蹴ってカウンターを招いてしまった。
いずれも個人のミスというより、指向するサッカースタイルが生んだミスだったと言ってもいい。UAE戦を終えて、「中盤でのボールの失い方が良くなかった。もう少しカウンターを受けないような攻撃をしないといけない。攻撃してカウンター、攻撃してカウンターというのを繰り返していると、アップダウンが激しくて前線の選手たちの余力がなくなってしまう」と分析したのは吉田である。
結果論になるが、UAE戦に臨んだ選手たちのフィジカルコンディションを考えるとこれまでと同じようにプレイスピードを速く、縦へ急ぐことを求めるのは酷だった。その試合にはその試合に相応しい戦い方がある。フレンドリーマッチなら理想を追求するのもいいが、W杯最終予選は勝たなければならないのだからもっと他の選択肢があったはずである。
とはいえ、これまでの強化の流れを考えれば選手の顔ぶれ、戦うスタイルに変化が起こることは考えられなかった。なにしろ、柔軟性がないのがいまの日本代表である。指向するスタイルを貫くべく、ハリルホジッチは「スピードアップと前方への精度の高いパスを期待していた」という理由で国際Aマッ チ初出場となる大島をスタメンで送り出した。実際は多くの選手が本調子ではなく、これがチーム全体の連係の悪さにつながって大島には辛い一戦となってしまった。
もっと主導権を握り、どんどん攻撃を仕掛けられる試合、たとえばその後に行なわれたタイ戦に出場していたら大島の能力はもっと生かされたはずだ。しかし、練習中に右足首を傷めたことでべンチ外となり、そのチャンスは失われている。