【ハリルジャパンへの提言 1】今こそ書き換えるべき、代表強化の処方箋

「名将を輸入すればOK」という時代は終わっている

「名将を輸入すればOK」という時代は終わっている

最終予選の初戦を落とし、痛烈な批判にさらされているハリルホジッチ監督 photo/Getty Images

代表強化の処方箋を書き換える時期が来ていると思う。

もはや名将を据えた途端に急変貌などというお伽噺は存在しないし、さすがに日本もそういうレベルではなくなった。Jリーグ草創期は、1度引退したジーコが鹿島を牽引したし、ハンス・オフトが指揮を執り始めた途端に、負け続きだった日本代表の歴史が一変した。だが今では、ワールドカップ得点王のディエゴ・フォルランがやって来ても苦戦をする。いくら個の能力が突出していても、守備戦術に適合しなければマイナスになることもある。

一方でJリーグ草創期に比べれば、欧州一極集中、クラブ主導、戦術の複雑化などが、ますます加速してきた。最高峰の舞台は欧州のクラブシーンで、そこでは名将たちが独自のドリームチームを編成し、毎日のトレーニングで熟成していく。逆に刹那的な「お祭り」に過ぎない代表の活動時間は、どんどん限られている。
ワールドカップの直近3大会を制したのはドイツ(’14年)スペイン(’10年)イタリア(’06年)だが、それぞれバイエルン、バルセロナ、ユヴェントスと基盤を成すチーム(ユニット)があった。反面ワールドカップ最終予選でUAEと対戦した日本は、出場14人全員が別々のクラブでプレイしている。しかも指揮を執るのが、来日して初めて日本の実情を探り始めたハリルホジッチ監督である。世界中にエース級のタレントをばら撒いているブラジルやアルゼンチンでも、代表戦では苦労する時代なのだ。もし同じように選抜方式で代表強化を図るなら、こうした大国を個の力で凌駕しない限り追いつけない。あるいはもし個で上回れる日が来たとしても、ドイツやスペインの組織力に及ばない。つまり名将を輸入し、即席の選抜チームで戦わせる発想そのものに限界がある。

限られた時間で強化を施すには、独自の発想が求められる

限られた時間で強化を施すには、独自の発想が求められる

チリに攻撃サッカーを植え付けたビエルサの功績はいまも光っている photo/Getty Images

ただし代表強化は、逆に活動期間が限られているだけに、発想次第ではチャンスが広がる。例えば、チリ代表の基盤を築いたマルセロ・ビエルサ監督は、戦術を浸透させるために、まずユース代表の選手たちに動きを教え込んだ。フル代表の選手たちが、その動きをなぞることで効率化を図ったのだ。かつて日本代表でも、イビツァ・オシム監督が同じことを試みた。自分のコンセプトを理解した千葉の選手たちを中心に基礎固めをして、徐々にメンバー選考の輪を広げていったのである。

そもそも現代表が日本で最強チームなのかを、疑ってかかる必要がある。現代表はシンガポールやUAEを相手に再三のチャンスを逃して来たが、J1で川崎は同じように引いた相手を攻略出来ている。先のUAE戦も、初抜擢の大島僚太は、コンディション面で問題を抱えたというより、周囲との共通理解が不足していた。単純に個として捉えればアラも見えるが、川崎のユニットとしてプレイをすれば評価は180度変わる可能性が高い。

UAE戦ではほろ苦い思いを味わった大島だが、連携次第で輝きはじめる可能性は高い photo/Getty Images

まず代表監督には、日本の特徴を最大限に生かすためのアイデアマンが要る。一方で国内事情も、団子レースを満喫するばかりではなく、多少強引な国策としてでもミニバイエルンやミニレアルを創り上げるための改革を促したい。アマチュア時代の日本は、代表を単独チームのように集中強化した。同様に今回のUAEも、日本戦のために2か月間も準備を施した。このままでは、代表の集中強化が可能な国に、足をすくわれるリスクが増すばかりだ。

思えば、世界の中の日本を明確に把握したオシム氏は、時代を先取りして代表強化の方向性を示唆したに違いない。独自の発想を具現し、他国以上に組織としての熟成を追求しなければ、日本の活路は開けない。もはや「誰を監督に招聘するか」ではなく、そこから逆算して強化策を刷新するべきである。

文/加部 究

theWORLD178号 2016年9月23日配信の記事より転載

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