名良橋晃の定点観測♯25「ハリルJは連係不足や守備組織の非構築がサイドバックの動きを制限している」

W杯予選
ハリル
ハリル・ジャパン
名良橋晃
日本代表

UAE戦では思い切ったプレイができず、酒井宏樹は失点にもからんだ Photo/Getty Images

動きが中途半端になると、相手にスキを与えてしまう

W杯アジア最終予選の初戦は本当に難しく、なにが起こるかわからない。そう考えていましたが、UAE戦の敗戦は想定外でした。立ち上がりから良い流れで試合を進めるなか、リードを奪うことに成功しました。ただ、その後はいまの日本代表が抱える「決めきれない」という課題が露呈し、崩すことができず逆にスキを与えてしまいました。

相手の立場になって考えると、日本代表の攻撃はあまり恐さがありません。中央の守備を固めてバイタルエリアでボールを回させ、サイドにパスを出させる。そして、ゴール前でクロスを跳ね返すことを繰り返していればある程度の危機を回避できます。こうした守備組織を崩すためにはボランチの攻撃参加、多少強引なミドルシュート、精度の高いクロスやラストパスが必要ですが、現状はシュートを打てるタイミングでもきれいにパスをつなごうとすることが多く、そのぶんミスが生まれたり、相手に対応する時間を与えたりしています。各選手にもっと思い切ったプレイ、迫力あるプレイ、ゴールにこだわったプレイをしてほしいです。

現役時代の私は右サイドバックだったので、同ポジションの選手のプレイはやはり気になります。UAE戦、タイ戦では酒井宏樹が務め、タイ戦では先制点を演出するなど積極的な攻撃参加と良質なクロスで勝利に貢献しました。ただ、もっと強気に、自分自身でシュートまでもっていく姿勢があっていいと思います。タテに突破してクロスという選択肢だけでは、相手が守りやすいです。

柏レイソルでプレイするころの酒井宏はニアへのアーリークロスがストロングポイントでしたが、これは一番守りにくいボールです。一方で、中央へ切れ込んでのシュートもありました。いまはチームプレイを考えることで、自らプレイを制限してしまっているのかもしれません。正直、日本代表のなかで本来持っている特徴が発揮されているとは思えません。大きな期待をしているぶん、そう見えるのかもしれませんが……。

同サイドでプレイする本田圭佑が中央へ絞ることが多いので、もう少し早く攻撃参加してもいい。そして、ゴール前の選手と息を合わせてアーリークロスを入れる、あるいはタテへ突破してクロスを折り返す。または、中央へ切れ込んで自らシュートを放つ。そうした思い切ったプレイが必要ですが、なぜできないのか? 原因は守備にあります。

以前から指摘しているのですが、吉田麻也、森重真人との連係が十分ではなく、相手を見失ってスキを与えることがあります。守備に不安があるため、攻撃のときに思い切ったプレイができず中途半端になっています。UAE戦では攻撃の能力に秀でた大島僚太がボランチに起用されたことで、サイドバックは守備を考えるとリスクを冒した攻撃参加をしにくい状況でした。一方で、タイ戦では山口蛍が攻守のバランスを取ってくれるので、積極的に上がることができました。

いずれにせよ、中途半端なプレイが一番良くありません。サイドバックが大胆に攻撃参加すれば、まわりの選手のカバーリングも明白になります。行くのか、行かないのかどっちつかずだと、ポジションのスライドやマークの受け渡しがうまくいかず、相手を見失ってしまうことがあるのです。

 チームの雰囲気を変えるために、ギラギラした選手がほしい

UAE戦の前半に喫した失点は、FKで奪われたものでした。そのFKにつながったプレイを振り返ると、大島からのパスを受けた酒井宏がマイボールにできず、相手に渡ったところからカウンターを受けたものでした。意識が攻撃にあり、酒井宏が思い切って前に出ていたら受けられたパスだったように思います。スピードを生かしてタテへ抜け出すイメージで受けていれば、あるいは……というプレイでした。同じようなプレイはタイ戦の左サイドでもあり、中盤でボールを奪われてカウンターを受け、GK西川周作が相手FWとの1対1を顔面でセーブして防ぐというシーンがありました。

サイドバック、ボランチ、センターバックの連係を考えると、今後の試合でもこうした危ないシーンが見られるかもしれません。森重は高いポジションを取りたいが、吉田は重心を後ろに置きたいという意識のズレが生じている瞬間があり、オフサイドを取れずに背後を突かれるケースがあります。必然としてサイドバックは素早く中央へ絞る意識を持ってプレイしなければならず、これも大胆に攻撃参加できない要因のひとつになっています。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「デュエル」(決闘、対決)という言葉を使って1対1の勝負に勝つ重要性を強調していますが、試合中には1対1では抑えられない状況がどうしてもあります。まわりの選手が予測して良いポジションを取り、サポートすることも大事です。いまの日本代表は高い位置からボールを取りにいくのか、後ろにブロックを作って対応するのか狙いが明確ではないときがあります。UAE戦でもタイ戦でも不安定な時間帯があり、この辺りの守備組織がまだ構築されていないと感じています。

タイ戦では原口元気、浅野拓磨といった選手が活躍することで同ポジションの既存の選手に危機感が生まれました。同じようにサイドバックも複数の選手が競争することでレベルアップを図る必要があると思います。現状、右サイドバックは内田篤人の復帰になかなか見通しが立たず、酒井宏と酒井高徳が務めています。ここにアジア最終予選を戦うメンバーに予備登録されている米倉恒貴、塩谷司、武岡優斗、川口尚紀、松原健などが加わってポジション争いを活性化してほしいです。さらに、ロシアW杯を見据えれば、室屋成、伊東幸敏などにも可能性があるでしょう。いずれも攻撃的なサイドバックで、現役時代の私がそうだったように前への推進力がある選手たちです。

左サイドバックも長友佑都、酒井高に落ち着いていて競争がありません。太田宏介、槙野智章、車屋紳太郎、藤春廣輝、宇賀神友弥、小川諒也、山中亮輔など同ポジションは多くの選手が予備登録されており、それぞれにチャンスがあります。登録外になりますが、亀川諒史、山本脩斗なども良いサイドバックです。山本は31歳ですが、年齢は関係ありません。他ポジションもそうですが、代表選手は現在のパフォーマンスで選ぶべきです。

そういった意味で、私はもっとどん欲に勝利を目指すギラギラした選手を選んでほしいです。アジア最終予選は泥臭く、なにがなんでも勝つという強い意志がないと勝ち抜けません。J1で苦戦している名古屋グランパスは田中マルクス闘莉王が加わってチームの雰囲気が変わり、4か月ぶりに勝利しました。

小林祐希などギラギラした選手が入れば、雰囲気がガラッと変わる可能性がある Photo/Getty Images

熱く、ギラギラした男が1人でもいるとチームの雰囲気はガラっと変わります。本田も代表入りしたころは中村俊輔とポジションを争っていてギラギラしていました。とにかく、いまのチームには停滞した雰囲気をぶち壊す力強いパワーを持った選手が必要です。予備登録メンバーのなかでは、小林祐希、大久保嘉人、金崎夢生などが候補になるでしょうか。ハリルホジッチ監督には個性的な選手を選ぶ視点も持ってほしいです。

構成/飯塚健司

theWORLD178号 2016年9月23日配信の記事より転載

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