[五輪現地レポ 4]“いつも通り”に戦えなかった日本

初勝利も虚しく

初勝利も虚しく

スウェーデン戦で勝利した選手たちの顔に喜びの色はなかった photo/Getty Images

スウェ-デン戦、1-0で終了の笛が鳴った。リオ五輪での初勝利だが、喜んでいる選手はひとりもいなかった。

ベンチ前に集まってきた選手はピッチで水を飲みながら朗報を待っていた。だが、秋葉忠宏コ-チから鈴木武蔵にコロンビア戦の結果が伝えられると鈴木は大きく首を振り、その場に立ち尽くした。

日本がスウェ-デンに勝ち、1勝1敗1分けの勝ち点4になったが、ナイジェリアに勝ったコロンビアが勝ち点5となり、日本のグル-プリ-グ敗退が決まったのである。

スウェ-デン戦は勝つには勝ったが内容は決して良くはなかった。スウェ-デンの緩慢な動きは勝つ意欲に乏しく、日本もそれにお付き合いしている感じだった。問題はこの試合の出来不出来というより、3戦目に自力で決勝ト-ナメント進出を決められない状況で迎えたことにあった。その問題と突き詰めていくと、やはり初戦のナイジェリア戦に突き当たってしまう。

「初戦の負けが痛かった」(浅野拓磨)

「初戦で勝ち点が取れなかった。最低でも引き分けていれば」(興梠慎三)

「初戦がすべてだったのかなと思います。勝っても上にいけないのは初戦の負けが響いたと思います」(南野拓実)

スウェ-デン戦後、選手は口々に同じことを言っていたが、手倉森誠監督自身が「初戦がメダルのすべて」と断言していたことからも初戦を大量失点で失い、短期決戦に必要ないい流れを作れなかったことがグル-プリ-グ突破できなかった要因であろう。

では、なぜいい流れを作れなかったのだろうか。大会前の親善試合ブラジル戦、日本はほとんどボ-ルを支配され、守備がハメられず、チ-ムは完敗した。個人能力が高い相手に対して、どう守り、どうやってボ-ルを奪い、点を取りにくのか。課題は山積だが、立ち戻る先は守備である。ところがマナウス入りをしてからもチ-ムは組織的な守備の戦術練習をまったくしなかった。

「ただ、守っていても点が取れないし、勝てない。ボ-ルの取りどころが大事だと思うけど、そこはまだできていない」

ナイジェリア戦前、センタ-バックの塩谷司は、ボ-ルを取る場所、タイミングを含め全体的な守備のやり方が決まらない状況に不安を感じていた。

この時、監督が始めたのは4-3-3という新しいシステムでの攻撃練習だった。

大きな国際大会、しかも短期決戦で勝ち上がるためには、「堅守」が必須なことは誰もが理解していることだ。日本はそれを武器にリオ五輪最終予選を戦い、アジアチャンピオンになった。しかし、今回、チ-ムのベ-スとなる守備を監督はブラジル戦で痛い目に合ったにもかかわらず、アジアを制し、トゥ-ロンでもある程度守れたことで「良し」としてしまった。そして、4-3-3の攻撃を消化することに時間を割いた。

これが裏目に出た。

身体能力の高いナイジェリアに対して4-3-3を試した。手倉森監督からすると世界に勝つために必要なシステムだったのかもしれないが、日本の多くの選手は世界の大舞台に緊張し、しかも相手はグル-プ最強と言われたナイジェリアだ。大事な初戦だからこそ新しい4-3-3ではなく、やり慣れた4-4-2で入り、守備重視で入るべきだった。ここでリオ五輪最終予選のようにしっかり守る戦い方ができていれば最後に勝ち点差1に泣くことはなかったかもしれない。ところが開始早々に驚異の身体能力を見せられ、ミスを犯し、失点し、冷静さを失った。乱打戦に持ち込まれ、初戦を落としてしまった。

「自分たちの戦いができず、メンタルのダメ-ジも大きく、厳しい敗戦になった。ここからどうチ-ムを回復していくのか、負けた直後は頭がうまく回らなかった」

南野は、初戦の敗戦のショックをそう述べたが、自信をつけて2戦目以降に繋げるという目論みは霧散し、ここでいい流れを作ることができなかった。

リオ五輪最終予選ではグル-プリ-グ初戦の北朝鮮戦に1-0で勝っていい流れを作り、結果的に優勝することができた。アジアと世界ではレベルが違うという指摘もあるが、流れをつくるのにアジアも世界もない。初戦を勝っていい流れを作ることは勝ち上がるためには不可欠なこと。その流れを新たなシステムを試して負けたことで失い、さらに選手たちは4-4-2でプレイできなかったことで自分たちの現在地、その時点での正確な力の違いを計れなくなった。

コロンビア戦、日本は4-4-2に戻して原点回帰をした。体に染みついた動きが自然とプレイに反映され、チ-ムはいつものリズムと動きを取り戻した。勝ちきれなかったが「チ-ムとしての良くなっている手応えを掴んだ」と遠藤航が語るように、チ-ムは息を吹き返したのだ。選手の距離感とコンパクトに戦うことでいい守備ができて、いい攻撃ができることが改めて分かった。スウェ-デン戦でも、その流れを継続した。ゾ-ンで守る相手に前半から揺さぶりをかけて動かし、疲れさせ、後半は崩せるようになった。だが、勝利は虚しいものになってしまった。

日本は1勝1敗1分け、勝ち点4。得点7、失点7でBグル-プ3位。2位コロンビアとの勝ち点はわずか1点差だが、その差が大きかった。

「ほんと1点差だけど、コロンビア戦で勝ちきれないところに自分の弱さが出たのかなと思う。望みをつなげられることになったけど、土壇場で結果を出すというところで力が足りなかった。いいサッカ-をしても、そういう勝負ところで結果を出せない。それが僕たちの弱いところだと思います」。鈴木武蔵は、そう言った。

でも、なぜいつも通りに戦わなかったのか。終わって頭に浮かぶのはその思いだ。

いつも通りやることの重要性を監督は指摘しつづけたのに、大事な初戦でこれまでのやり方を変えた。選手起用もスウェ-デン戦では、コロンビア戦でオウンゴ-ルを犯した藤春廣輝を下げ、亀川をスタメンに入れた。攻撃的なプレイと上下動できる運動量を評価してのOA枠だったはずだが、そういう選手が必要なスウェ-デン戦でベンチに置いたのだ。

スタメンも大島僚太、南野を入れて、先制点を奪って早く試合を決めてしまおうという意図が見えたが、この二人は後半投入で生きるのがコロンビア戦で証明されている。矢島慎也と鈴木が途中出場し、矢島が決勝点を決めたがいつもの采配であればスタメンが矢島と鈴木であり、後半の勝負どころで大島、南野という順番がセオリ-なはずだ。

アテネ五輪で、最終予選までは抜群の采配を見せていた山本昌邦監督がアテネ五輪本大会では、「なぜ」というような采配をして1勝2敗でグル-プリ-グ敗退を喫した。手倉森監督の采配は、もちろんコロンビア戦の大島と南野の同時投入で同点に追い付くなど閃きもあったが、守備の修正やナイジェリア戦のシステム、スウェ-デン戦の選手起用など「なぜ?」と思うことが増えた。五輪本番は、それまで采配が当たっていた監督を狂わせてしまう何かがあるのだろうか。

成功したロンドン五輪から2大会連続で大きな成果を挙げることはできなかった。勝っても決勝ト-ナメントに進めない後味の悪さを残して日本は、リオ五輪から姿を消すことになった。

文/佐藤 俊

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