名良橋晃の定点観測♯23「EURO2016総括。勝つためには良質なFWが必要」

守備重視のチームが躍進。ポゼッションは消えつつある

フランスで開催されていたEUR0はポルトガルの優勝に終わりました。その戦いを振り返ると、グループリーグ3試合がいずれも引き分け。決勝トーナメントでもラウンド16のクロアチア戦、準々決勝のポーランド戦が延長戦にもつれ込むなど終始接戦となりました。そうしたなか優勝を遂げる原動力になったのが、高い守備力でした。

正直、グループリーグの段階ではリカルド・カルバーリョとペペで構成する最終ラインの中央に不安を感じていました。とくに、リカルド・カルバーリョはスピードがなく、スペースにボールを出されると失点のピンチを迎えていました。フェルナンド・サントス監督も同じ懸念を抱いていたようで、決勝トーナメントに入るとセンターバックがジョゼ・フォンテとペペのコンビに変更され、これが奏功しました。

ペペは相手とのかけ引きがうまく、カバーリング能力に長けた選手です。加えて、前方へのフィードも正確です。パートナーに統率力があるフォンテを迎えたことで、最終ラインがグッと引き締まり、チームとしての安定感が増しました。また、守備的MFを務めたウィリアム・カルバーリョの運動量、ボールを奪う能力も目立ちました。攻撃面で活躍した18歳のレナト・サンチェスが話題になることが多いですが、大会中に24歳の誕生日を迎えたウィリアム・カルバーリョも評価を高めた選手のひとりだと思います。
なにより、ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドも含めて各選手がそれぞれの特徴をいかんなく発揮していました。そういった意味で、フェルナンド・サントス監督が昨季プレミアリーグを制したレスターのクラウディオ・ラニエリ監督とダブッて見えました。守備を重視した戦術をもとに選手がプレイしやすい環境作りに努め、うまく力を引き出していました。ある程度の自由を与えられたクリスティアーノ・ロナウドもプレイしやすかったのではないかなと思っています。

このポルトガルを筆頭に、今大会はアイスランド、北アイルランド、ハンガリー、ウェールズなど守備力のあるチームの躍進が目立ちました。グループリーグで敗退したアルバニアも組織的な守備をする良いチームでした。
一方で、ポゼッション・サッカーを指向するチームは消えつつあるなと感じました。スペイン、ドイツ、フランスは攻撃に重心があるチームでしたが、根本にはしっかりとした守備があり、高い位置でボールを奪って素早くカウンターを仕掛けるという狙いがありました。そのスタイルは決してポゼッションにこだわるものではなく、前線に大型FWを起用し、ときにターゲットを目掛けてロングボールを入れていました。

スペインのアルバロ・モラタやアリツ・アドゥリス、ドイツのマリオ・ゴメス、フランスのオリヴィエ・ジルーやアンドレ=ピエール・ジニャク。1トップを務めたこうした選手たちがもっと活躍することができれば、この3チームにも優勝の可能性があったと思います。堅守の相手からゴールを奪うには、強くて高さのある1トップが前線で存在感を示し、そこにまわりの選手がいかにからんでいけるかが重要だと今大会を見ていて感じました。

相手の堅守を崩すために、日本にも良質なFWが必要

強固な守備ブロックを崩してゴールを奪うには、正確なパスワークに加えて、ドリブル、ミドルシュートなど「個」の力が絶対に必要です。ベスト4に勝ち上がったチームを見ると、いずれも前線に少人数で得点できる質の高い選手たちがいました。ポルトガルにはクリスティアーノ・ロナウド、ナニ、レナト・サンチェスがいたし、ウェールズはガレス・ベイル、ロブソン・カヌ、アーロン・ラムジーの3人で攻めていました。

フランスはジルーとアントワーヌ・グリーズマンがタテ関係のポジションを取り、ディミトリ・パイェ、ポール・ポグバ、ブレイズ・マテゥイディといったドリブル能力が高い選手たちが後方から攻め上がっていました。ドイツもマリオ・ゴメスやトーマス・ミュラーが前線で身体を張り、ボールを引き出していました。さらには、ポルトガルの優勝を決めたエデルの強烈なミドルシュートも、わずかにマークが甘くなった瞬間に「個」の力で奪ったゴールと言っていいでしょう。

各国それぞれ戦術やスタイルに違いはあるものの、攻撃に求めているものは同じでした。この4か国以外を見ても、アイスランドは高さのあるコルベイン・シグトールソンとヨーン・ダーズィ・ベーズヴァルソンがポストプレイをしていたし、イタリアはグラツィアーノ・ペッレとエデルというタイプが異なる2名が高精度のカウンターを仕掛けていました。

そして、EUROが終了したいま私は9月1日からはじまるロシアW杯アジア最終予選に思いを馳せています。日本が対戦するのは、オーストラリア、イラク、サウジアラビア、UAE、タイの5か国です。いずれも、強固な守備ブロックをベースにしたサッカーで戦いを挑んでくると思います。その相手をいかに崩すかも重要ですが、その前にまず不用意なカウンターを作らせない守備のリスク管理に加え、守備ブロックの強度を高めないとW杯につながらない可能性があるとEUROを見て実感しています。

日本も含めていまはどのチームもタテに速いサッカーを指向しており、攻撃陣に「個」の力で突破できる良質な選手がいます。W杯本番はもちろん、アジア最終予選もしっかりと守れるベースがなければ勝点を積み上げられないでしょう。そのうえで、攻撃では相手の守備ブロックを崩すために「個」の力が必要になってきます。

プレミアリーグでプレイすることで身体が強くなった岡崎慎司がいまはFWの中心ですが、さらなるバリエーションが必要だと感じます。タテに速いサッカーだけでは、ゴール前を固める相手をなかなか崩せません。ロングボールを入れる、ドリブルで仕掛けるなどさまざまな攻撃をミックスすると効果的です。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は以前から身体が大きく、なおかつ自分で得点できるストライカーを探していると語っていますが、EUROが終わったいま、その思いをより強くしているのではないかと考えています。

構成:飯塚健司

theWORLD176号 2016年7月23日配信の記事より転載。

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