[予想外の4大リーグ総括! 5]千差万別! 戦術実験場となったブンデスリーガ

バイエルンはケガ人が続出するもグアルディオラが柔軟に対応した

ジョゼップ・グアルディオラのバイエルンでの3年間が終了した。初年度に国内2冠を達成したが、2年目はCL、ドイツ杯ともにベスト4で敗退し、マイスターシャーレの獲得のみに終わっていた。シーズン序盤から中盤にかけては無敵を誇るが、終盤になるとフィジカルコンディションやモチベーションが低下するのか、コロッと負けることがある。過去2年間のバイエルンはそんな印象だった。

今シーズンも開幕からいきなり10連勝を飾り、早々に首位の座をキープ。前半戦(第17節終了)を終えて冬期休暇を迎えた段階で、2位ドルトムントに勝点8差をつけていた。ピッチに立つ選手はもちろん、試合によってフォーメーションが変わるのはお馴染みで、ドウグラス・コスタ、アルトゥール・ビダル、キングスレイ・コマンといった新たに加わった選手たちの力を短期間でチームに融合し、危なげない戦いを続けていた。

そうしたなか、1月から2月にかけてCBを務める選手にケガ人が続出した。ジェローム・ボアテングが内転筋を傷めたのにはじまり、ホルガー・バドシュトゥバーが足首の手術、ハビ・マルティネスが左ヒザの手術を行なうという負のサイクルに陥っていた。
発想力が豊かなグアルディオラはさまざまな選手をCBに起用し、4バック、3バックを使い分けてこの危機に対応した。メフディ・ベナティア、ダビド・アラバ、ファン・ベルナト、ジョシュア・キミッヒ、ザーダール・タスキなどを組み合わせて戦い、後半戦の17試合を13勝3分1敗で乗り切っている。第28節フランクフルト戦ではアラバが3バックの中央でプレイするなど各選手が応用力を問われるなか、それぞれが万能な力を発揮することで白星を重ねていった。

終わってみれば2位ドルトムントに勝点10差をつけている。それでも、グアルディオラは「(今回の優勝が)一番難しかった」と語っている。CBに負傷者が続出し、厳しい戦いを続けたのは事実で、最大のヤマ場は第25節ドルトムントとのアウェイゲームにあった。前節のマインツ戦に敗れたことで勝点5差で迎えた一戦で、敗れるとあるいはという今シーズンの天王山だった。
このドルトムント戦は0-0で終わったが、バイエルンの圧力がホームチームの勢いを封じ込めていた。得点するチャンスはバイエルンのほうが多く、内容的には勝点3を取れた優勢な試合だった。勝てなかったことでその後はしばらく勝点5差の状態が続いたが、逆にバイエルンにとってはこれがプラスに働いた。シーズン終盤に2位とこれ だけ勝点差が接近しているのは近年になかったことで、モチベーションを低下させることなくしっかりと戦い続け、前監督のユップ・ハインケスから続く優勝回数を増やし、通算26度目、前人未到となる4連覇を達成した。

大胆な采配をみせたトゥヘルがファン投票による最優秀監督

バイエルンが最後まで気を抜けなかったのは、トーマス・トゥヘル率いるドルトムントが追走していたからだ。ブンデスリーガ公式HPを通じてファンが投票する今シーズンの最優秀監督には、このトゥヘルが選ばれている。ユルゲン・クロッ プからチームを引き継いだトゥヘルは前任者よりも執拗に「勝負」にこだわる傾向があり、試合によって大胆な選手起用をみせる。

前述の第25節バイエルンとのホームゲームでは、香川真司はベンチ入りしなかった。この試合でのドルトムントは守備に力点を置いたため、カウンターを仕掛けるときにより力を発揮する選手がピッチに送り出され、パスをつないで攻撃をビルドアップするタイプの香川は選択されなかった。

だからといって、トゥヘルが香川を評価していないわけではない。勝つためにどんな戦いをするか? 事前に自分たちの特徴、相手の特徴を分析し、もっとも適した選択をしているに過ぎない。実際、アドリアン・ラモス、ゴンサロ・カストロ、クリスティアン・プリシッチなどトゥヘルがピッチに送り出した選手たちは高い確率で活躍している。この事実はファンも理解しており、だからこその最優秀監督への選出となったのだろう。

このブンデスリーガHPによる最優秀監督候補には、グアルディオラ、トゥヘルを含む4人の指揮官がリストアップされていた。残る2人は、ヘルタ・ベルリンのパル・ダルダイとインゴルシュタットのラルフ・ハーゼンヒュットルである。

原口元気がプレイするヘルタ・ ベルリンを指揮するダルダイは昨シーズン途中に就任し、下降線を辿っていたチームに短期間で規律ある守備組織を構築した。各選手がただ必死にボールを追いかけるのが守備ではない。ダルダイはボールを奪う明確な狙いどころを提示し、複数の選手が連係して ボールを奪うアグレッシブな守備をチームに植えつけた。

役割がはっきりすると選手はプレイしやすく、原口もダルダイのもと本来の特徴であるタテに速いプレイを出せるようになり、ブンデスリーガ初得点を奪うなど活躍した。また、チームも上位での戦いを続け、終盤になって7試合勝ちなしと失速したがそれまでの貯金が効いて7位でフィニッシュ。ドイツ杯決勝がUCL出場権のあるバイエルン対ドルトムントになったため、UELの出場権を得ている。

シーズン前の予想では、2004年創設の新興クラブで、初の1部昇格となったインゴルシュタットは苦戦すると考えられた。ところが、序盤から勝点をコツコツと積み上げ、下馬評を覆す11位でシーズンを終えている。偉業ともいえる成績をもたらしたのは3年前から指揮を執るラルフ・ハーゼンヒュットルで、インゴルシュタットは決して守るだけではないアグレッシブなチームだった。

自陣に守備のブロックを作り、相手の攻撃を跳ね返してマイボー ルになったらカウンターを仕掛ける。ハーゼンヒュットルが指向するのは、こうした堅守速攻のスタイルではない。前線の選手がファーストディフェンダーとなり、各選手が連動してボール保有者にプレッシャーをかける。いわゆる前方へ仕掛ける守備でボールを奪い、そのままの勢いでやはり各選手が連動した攻撃を仕掛け、フィニッシュまで持っていく。インゴルシュタットは1部で もこうしたスタイルを貫き、十分に通用することを証明してみせた。
グアルディオラ、トゥヘル、ダルダイ、そしてハーゼンヒュットル……。 この4名をピックアップしたが、レバークーゼンのロジャー・シュミット、ボルシアMGのアンドレ・シューベルトも短期間で自身のスタイルをチームに植えつけることに成功した。武藤嘉紀がプレイするマインツのマルティン・シュミットも選手の特徴を見極めるのがうまく、最大限の能力を引き出している。

今シーズンのブンデスリーガではこうした個性ある指揮官たちがさまざまな戦術をテストしており、さながら戦術実験場といった様相を呈した。来シーズンもまた、いまは名前を知らない指揮官に率いられたチームが台頭するかもしれない。

文/飯塚 健司

theWORLD174号 2016年5月23日配信の記事より転載

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