[今語りたいフットボーラー! 3]全力! 必死! 岡崎慎司こそ大躍進レスターの象徴だ

「パスが来ない」という現実としっかりと向き合った

「パスが来ない」という現実としっかりと向き合った

運動量や守備面の貢献を絶賛される岡崎だが、本人は納得していないようだ photo/Getty Images

この9カ月でレスター(イングランド)の岡崎慎司は、明らかに変わった。2キロぐらい太って、お尻のあたりがふっくらしたとか、英語が少し喋れるようになったとか、3 0歳になって、ちょっとだけオッさんになったとか… …。そんな小さなことではない。サッカーに対する「構え」が、変わったのだ。「必死にやることが、どこか格好悪いと思うところがあった。でも(ジェイミー)バーディとかリヤド(マフレズ)を見ると、そうじゃないなって。3 0歳になっても必死にやってる奴のほうが格好いいと思う」と岡崎は明かす。

本来の岡崎の特徴は、攻撃時に相手D F陣の裏へ抜け出て、味方からのパスをピンポイントで合わせ、ゴールを決める得点力だ。また守備時には、相手を追い回すプレイも得意とする。今季この「追い回し」はレスターで重宝されているが、「味方からのパス」はなかなか来ない。

開幕から9戦中8戦で先発し、プレミア1年目を順調に滑り出した岡崎だったが、昨年1 0月以降、先発から外れることが増えた。それでも途中出場し、1 1月の敵地でのニューカッスル戦で今季2点目。ヘディングを失敗し、G Kにキャッチングされかけるも押し込んだという珍ゴールだったが、得点は得点だ。次戦マンチェスター・ユナイテッド戦では先発したが、その次の敵地でのスウォンジー戦はベンチ入りするも出番なし。続くチェルシー戦では3番目の途中出場として8 8分からプレイしただけだった。

ストロングポイントにさらなる磨きをかけた

ストロングポイントにさらなる磨きをかけた

同じストライカーとして、ゴールを決めまくったバーディに刺激を受けないはずがない photo/Getty Images

岡崎のいいところは、柔軟性である。もともと順応性があるタイプだが、ドイツ時代の4年半で苦労を重ね、よりその能力は高まった。どうすれば、ラニエリ監督に試合でもっと使ってもらえるか。手っ取り早い方法として、先発起用される選手が、どんなプレイをしているか。それを真似ることにした。

その結果、行き着いた答えが「必死にやること」だった。この「必死」という言葉には、少し解説がいる。岡崎はこれまでも、いつもがむしゃらにプレイするストライカーだった。何をいまさら、ということになる。ここで岡崎が言う「必死」とは、「チームメイトには目をくれず」、「わがまま」で「激しく」、「リスク覚悟の危険なプレイ」をする、という意味だ。バーディーやマフレズのようなプレイを指す。

もちろんチームプレイを完全に止める、というわけではない。今季序盤から、岡崎はラニエリ監督に「前線からプレスをかけろ」と指示され、愚直なまでにボールを追いかけていた。だがその回数や距離を少し減らし、攻撃時にボールを持ったら、少しだけバーディーやマフレズっぽく、リスクをかけたプレイをすることを心掛けた。

たとえばゴールを背にしてパスを受けたら、相手にボールを奪われるかもしれないが出来るだけ無理やりターン。前が空いていたら、そのスペースを使ってドリブルを仕掛け、一か八かでクロスも上げた。シュートも、もしかしたら相手にブロックされるかもしれない、という場面でも思いっ切り打った。

その結果、シーズンを折り返した1月13日の敵地でのトッテナム戦で先発して以来、4月17日のウェストハム戦まで14戦連続で先発中だ。通算5ゴール。残り4戦で目標だった二桁ゴール達成は難しいが、もしレスターが初優勝を飾ったら(※編注:第36節のトッテナム戦の結果を受けて優勝が決定)、間違いなくその立役者のひとりとして、「オカザキ」の名前は語り継がれるだろう。

意識の変化が代表戦でも違いをもたらす

意識の変化が代表戦でも違いをもたらす

代表戦ではゴールだけでなく、キャプテンマークも巻いた photo/Getty Images

実はこの岡崎の変身ぶりは、別のところでも現れた。3月24日に埼玉スタジアムで行なわれた、W杯アジア2次予選のアフガニスタン戦で決めた先制ゴールである。なかなか先制点が奪えず苦戦が続いたが43分、岡崎は清武弘嗣(ハノーファー)からパスを受けると、右足でボールをコントロールしながら反転し、相手DFの足元を抜いて、左足で先制点を流し込んだ。いままで岡崎がこんなゴールを決めたのは見たことがない。

「最初の半年で、献身的なプレイとか、守備で頑張るだけじゃ上には行けないことをとことん味わった。自分で仕掛けるプレイが増えたから、ああいうゴールができた。続けていくべきだなと思う」

もしレスターが優勝すれば、その経験が彼をさらに変身させるだろう。来季、欧州チャンピオンズリーグに出場すれば、より厳しい戦いが待っている。再び悔しい思いをして、もっと危険なストライカーになるかもしれない。レスターという環境が、30歳になった岡崎をいまなお、育てている。

文/原田 公樹

theWORLD173号 2016年4月23日配信の記事より転載

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