名良橋晃の定点観測♯20「W杯アジア最終予選はきれいごとでは勝ち抜けない。現状では楽観できない」

長丁場の最終予選では経験豊富な選手が必要

長丁場の最終予選では経験豊富な選手が必要

ハリルホジッチ監督には中村憲、大久保などの招集も考えてほしい Photo/Getty Images

ロシアW杯アジア最終予選の組分けが決定し、日本代表はオーストラリア、サウジアラビア、UAE、イラク、タイと同組となりました。U-23代表のリオ五輪最終予選はセントラル方式で開催され、良いリズムのまま一体感を持って短期間を戦い抜くことができました。対して、9月1日からスタートする最終予選は1年という長いスパンで行なわれます。主力にケガ人が出たり、コンディションが整っていない状況で迎える試合があるかもしれません。良い時期があれば、悪い時期もあるでしょう。

私は1997年にフランスW杯のアジア最終予選を経験しましたが、やはり苦しい時期がありました。そのときに効果的だったのが、ゴンさん(中山雅史)や高木(琢也)さんといった経験豊富な選手たちの合流でした。チーム状況に応じて、ひとりひとりがどうしなければならないか? なにをしなければならないか? 経験豊富な選手たちはチームを良い方向へ導く術を熟知しています。

97年の最終予選は初戦のウズベキスタン戦に6-3で勝利して好スタートを切りましたが、3戦目の韓国戦に敗れ、続くカザフスタン戦に引き分けた時点で加茂周監督が更迭となりました。W杯予選はみんなが国の威信をかけて戦っていて、とくに最終予選は簡単に勝てる試合はありません。長距離移動もあるし、気候も違います。いまの日本代表は質の高い選手が多く、普段どおりの力を発揮すれば勝てるかもしれませんが、普段どおりの力を発揮できないのが最終予選です。
本田圭佑などすでに経験がある選手たちは難しさを理解しており、警鐘を鳴らす発言をしています。対戦相手を考えると、厳しい戦いを強いられるのは間違いありません。オーストラリアのようにパワーで押してくる相手は戦い辛いし、サウジアラビアは2010年南アフリカW杯のときにオランダを準優勝に導いたファンマルバイク監督が率いています。グループリーグで日本も対戦し、敗れています。また、UAEにも15年アジアカップでPK戦のすえに敗れています。リベンジしなければならない相手ですが、サウジアラビア、UAEといった中東勢とのアウェイゲームは本当になにが起こるかわかりません。

イラク、タイも「日本を倒してやろう」という強い気持ちで挑んできます。繰り返しになりますが、間違いなく難しい最終予選になります。だからこそ、ハリルホジッチ監督には大久保嘉人、中村憲剛など経験豊富な選手の招集を考えてほしいです。

また同時に、新戦力の力も必要です。エイバル(スペイン)で結果を残している乾貴士がなぜ呼ばれないのか不思議だし、サイドバックの選手層の薄さを考えるとフィテッセ(オランダ)の太田宏介ももう一度呼ぶべき選手だと思います。Jリーグでは横浜FMの齋藤学が良いプレイを見せています。長丁場の最終予選を戦い抜くためには、こうした経験豊富な選手たち、新たな選手たちの力が必ず必要になってきます。

気持ちを引き締めないと出場権を逃す可能性もある

気持ちを引き締めないと出場権を逃す可能性もある

UAEには15年アジアカップで敗れている。嫌な印象が残る相手だ Photo/Getty Images

最終予選の対戦日程は以下のとおりです。

9月1日UAE(H)、6日タイ(A)、10月6日イラク(H)、11日オーストラリア(A)、11月15日サウジアラビア(H)、2017年3月23日UAE(A)、28日タイ(H)、6月13日イラク(A)、8月31日オーストラリア(H)、9月5日サウジアラビア(A)

この日程を見るとホームゲーム3試合を含む年内の5試合がとても重要で、しっかり結果を残さないといけないです。なぜなら、混戦のまま17年を迎えると、中東でのアウェイゲーム2試合やイラクとのアウェイゲームなど非常に厳しい戦いが待ち受けています。

ある程度のアドバンテージを持って17年を迎えるためにも、初戦のUAEとのホームゲームにしっかりと勝って良いリズムを作りたいところです。そして、長丁場の戦いのなか、誰がピッチに立ってもチーム力が変わらない一体感のある戦いを続けて、確実に勝点を積み重ねていく。これができれば、ロシアW杯の出場権を獲得できると思います。

気になるのは、とても大事な初戦のUAE戦に向けて、準備期間をどれだけ取れるのかということです。6月のキリンカップ2試合だけでは、正直心もとないです。8月にリオ五輪が終了したあと、U-23代表の選手を加えて調整する期間が絶対に必要です。日程を考えると難しいかもしれませんが、日本サッカー協会(JFA)にはいろいろな対応を考えてほしいです。97年の最終予選では、代表選手抜きでJリーグやナビスコ杯を行なったときもありました。JFAとJリーグが良く話し合って、より良い解決策を導き出してほしいです。

サッカー界全体が気持ちを引き締めてかからないと、もしかしたらロシアW杯の出場権を逃してしまうかもしれません。2次予選の日本代表はまだまだきれいなサッカーをしていて、どんなカタチでもいいからゴールを奪う、泥臭く勝利をつかむという感じではありませんでした。最終予選はきれいごとでは勝ち抜けません。2次予選を戦った日本代表では、決して楽観できる状況ではありません。

そういった意味で、JFAの田嶋幸三会長、岡田武史副会長、西野朗技術委員長の新しいトライアングルに期待しています。岡田さん、西野さんは代表の現場をよくわかっています。ハリルホジッチ監督も2次予選を通じてアジアを戦う厳しさをすでに理解しています。最終予選が厳しい戦いになると考えているのは、他ならないハリルホジッチ監督自身だと思います。万全のサポート体制を整えて、サッカー界全体が一体となって最終予選を戦っていかなければならないと考えています。

構成:飯塚健司

theWORLD173号 2016年4月23日配信の記事より転載

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