[躍進するストライカーたち 1]3人のストライカーが大混戦のプレミアを揺るがす

こんなものでは終わらない! 天性の点取り屋が爪を研ぐ

本領発揮にはまだ至っていない。度重なる小さな故障を繰り返し、今シーズンは8点しか取っていない。セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)のキャリア、センス、そしてポテンシャルを踏まえれば誰もが、もちろん本人もフラストレーションが募っているはずだ。

「たった8点!? ふざけるんじゃないっ!」

しかし13節の対リヴァプール戦で、彼はストライカーの本性を露にした。3点のビハインドで迎えた44分、アグエロはワンタッチ・コントロールでシュートのコースを創り、強烈な一撃をサイドネットに突き刺した。
一見、簡単そうに映ったシーンだが、アグエロは瞬時にポジショニング、ボールコントロール、シュートと完璧な動作をこなしている。凡庸な選手であれば、センスの欠片もないようなFWであれば、相手DFに寄せられ、トラップが大きくなり、シュートすら打てなかったに違いない。

では、なぜスピーディーかつ正確に、一連のアクションを遂行できるのだろうか。つねにゴールをイメージしてさまざまなシミュレーションを繰り返し、絶え間なくポジションを修正しているからだ。足もとに欲しがるばかりだったり、ハイクロスを要求するだけだったりするFWでは、絶対にコピーしえない天性の感覚だ。

冒頭で述べた小さな故障の繰り返しは気がかりだが、アグエロの実力をもってすれば、2シーズン連続の得点王は可能だ。16節終了時点で、首位を行くジェイミー・バーディ(レスター・シティ)との差は8点。“EASY”である。

望む場所を手に入れた、プレミア一のスピードスター

ケガとはうまく付き合っていかなければならないようだ。類稀なスピードが、膝と大腿部に激しいストレスを呼び起こす。ただ、彼の武器は天性のスピードであり、あのアンドレス・イニエスタをもってして、こう言わしめた。

「高度な戦略・戦術を練ったとしても、セオ・ウォルコット(アーセナル)の速さを封じるのは不可能だ。1試合に何回かは、決定機を創られる恐れがある」

一昨シーズンまでは高速ウイングでしかなかったウォルコットだが、「できるものならセンターでプレイしたい」という本人の意向に沿い、アーセン・ヴェンゲル監督のプランにスピードスターのFW起用が加わった。対戦相手の最終ラインが高めの設定なら、ウォルコットのスピードを生かして裏を取ればいい。裏を取られたくない最終ラインが下がれば、高い位置でインターセプトする確率が高くなる。ヴェンゲル監督も手ごたえを感じていた。

「マイボールになった瞬間に動き出すタイミングは抜群で、彼のスピードによってわれわれはカウンターという武器を手にした。あえて課題を挙げるとすれば、ポストワークだろう」

“ 完全覚醒”まであと一歩。ウォルコットは飛躍のときを迎えようとしている。

リーグを震撼させた成り上がりストライカー

バーディの第一印象は芳しくなかった。アジア人に罵声を浴びせ、警察のご厄介にもなった男が、なぜ岡崎慎司のチームメイトで、なおかつポジション争いのライバルなのだ!? こんなヤツ、処分されちまえばいいのに……。ところが、彼はパフォーマンスで汚名を返上した。

身長は178センチ。近代フットボールでは小柄な部類に入る。高等技術を有しているわけでもない。ただ、バーディはフルタイム・フル稼働が可能なスピード、スタミナを装備し、獰猛なまでの得点嗅覚でゴールを量産する。しかも闘争本能が旺盛で、マーカーがプレミアリーグを代表するDFでも一歩も引かず、いざとなったら警告も辞さないほどの強気なアタックを繰り返す。この積極性が、プレミアリーグ新記録となる11試合連続ゴールを記録し、来年6月に開催されるヨーロッパ選手権でも、イングランド代表の救世主として期待される要因のひとつだ。

さて、間もなく再開される移籍市場において、バーディは最も注目されるに違いない。移籍金は3000万ポンド(約54億円)。チェルシーとトッテナム・ホットスパーが虎視眈々と狙っている。レスターのクラウディオ・ラニエリ監督曰く──。「あらゆる手段を練って慰留するが、あらゆる手段を練って口説きにかかるのだろうね」

はたしてバーディは、新たなチャレンジを試みるのだろうか。彼の選択によって、プレミアリーグの流れが大きく変わる。

文/粕谷 秀樹

theWORLD169号 2015年12月23日配信の記事より転載

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