[指揮官リポート 3]セリエAに旋風を巻き起こす! 攻撃的スタイルを貫く2人の新監督

個性派アタッカーに組織力が加わるナポリ

セリエAが盛り上がっている。ユヴェントスのつまずきもあって、今季はまだ抜け出すクラブが出ていない。そんな先の見えないリーグをつくる要因となっている2つのチームがナポリとフィオレンティーナだ。
今年夏に新監督を迎えた両クラブの決断には賛否あったが、今のところ良い方向に転がっている。「 ナポリは勝者のチーム。故に彼はナポリの監督として適任ではない」。ナポリの、そしてサッカー界のレジェンドであるディエゴ・マラドーナは、9月にこう言い放った。ナポリはセリエA第3節まで勝利がなく苦しんでいたため、OBの不満が爆発した形だ。

しかし、エンポリで名をあげたマウリツィオ・サッリは「名前を知ってもらっているだけで光栄だ」と意に介さなかった。そして11月には、あのマラドーナに自身の発言が過ちだったと認めさせたのである。

サッリのナポリは、第12節まで終了したセリエAで22得点8失点。爆発力はあったが、安定感がなかったナポリのイメージを変えてきている。「ビッグクラブ経験がない監督に、圧力が強いナポリを率いることができるのか……」―誰もが疑問に思った。だが、今の活躍を見ると、彼以上の適任はいなかったとすら感じる。元銀行員らしい堅実さは、大胆なナポリとうまくかみ合った。
サッリがエンポリで評価されたのは、その組織力だ。じっくりとチームをつくって格上を封じてきたから、ナポリに引き抜かれている。だが、エンポリは決して守るだけのチームではなかったことをここにきて思い出すのだ。「ボールを奪ってからの速攻が鋭い。前線にタレントがいれば、もっと結果が出ている」と思ったことが過去に何度もあったことを。

エンポリにない決定力がナポリにはある。チームの主将であるマレク・ハムシクは先日、長年同じメンバーでやっていることを好調の要因に挙げていた。サッリが組織を整えて安定感をもたらせば、元々スピードも技も連係もあるナポリの攻撃陣が得点を重ねることは自然だった。ゴンサロ・イグアインはここまで9ゴール。これはサンプドリアのエデルと並びリーグトップで、自身最速のペースだ。

守備の組織がはっきりしたところでボールの奪い方も明確になり、さらに効率的な攻撃へ移行できる。サッリは今、ナポリとともに監督として大きくステップアップしている途中だ。

前任者のスタイルを進化させたフィオレンティーナ

「目標は楽しませて、楽しみ、そして勝つこと」。フィオレンティーナのパウロ・ソウザ監督は、就任会見の席でこう話した。それを実践しているからこそ、今の順位にいられる。

サッリが緻密に計算された組織的サッカーなら、パウロ・ソウザは、正反対の指導者に映る。ビルドアップは後方から始め、ボールを奪われたらハイプレスで高い位置で取り返そうとする近代的なスタイル。現役時代にイタリアでも活躍したポルトガル人指揮官は、コンセプトを明確にして共通意識を植えつけた。

守っては“ゲーゲンプレス”のような姿を見せ、攻めてはバイエルン・ミュンヘンを思わせるようなポゼッションサッカー。これも就任会見でパウロ・ソウザが話していたことだが、前任のヴィンチェンツォ・モンテッラのサッカーを変えるのではなく、これを踏襲して進化させた。だからこそ、チームはそれほど苦しむことなく新監督にフィットできたのだ。パウロ・ソウザの戦術に合う選手がいたのは偶然ではない。前任の代役ではなく“後継者”としてやってきたのだから、求めるタイプが近いのは当然だった。

ゴール量産中のニコラ・カリニッチも忘れることはできない。クロアチア代表アタッカーは、守備の貢献度がすさまじい。彼の頑張りがあるからこそ、ヴィオラのハイプレスは効果的だ。前線のプレスで相手のミスを誘発することで、自分たちがボールを持つ時間は長くなる。リーグトップのボール支配率の原動力だ。

結果が出ているから監督の戦術を信頼できる。信頼するから必死に走ってチームが機能し、楽しくプレイすることができる。そのプレイと結果はファンを楽しませている。パウロ・ソウザは、フィオレンティーナで理想的なスタートを切った。
文/伊藤 敬佑
theWORLD168号 11月23日配信の記事より転載

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