[指揮官リポート 1]絶不調でもなお支持される、“名優モウリーニョ”の魅力

改めて支持を表明したセスク・ファブレガス

英国の高級紙『ガーディアン』は、〈The season is beingfucked〉(クソッタレなシーズンだ)と題して、セスク・ファブレガスのインタビューを掲載した。

「我々のパフォーマンスと結果は、必ずしも比例していない。攻守ともに、シーズン開幕直後より上向いているけれど、ツキにもなかなか恵まれない。もちろん、もう一歩も引けないな。ただ、クリスマスまでに上位をうかがえるポジションにつけられれば、リーグ優勝も視野に入ってくる」

「監督には全幅の信頼を寄せているよ。彼は“100%”の監督だ。たしかに、今シーズンのチェルシーは周囲の期待を裏切っている。でも、不振の原因が監督と選手の確執だなんていうニュースは、憶測が過ぎるんじゃないかな」
「夜、眠るときによく考えるんだ。あぁ、どうしてこんなことになっちまったんだってね。でも、僕だけじゃないと思うよ。監督も選手も、みんなが悔しいんだ。だから、われわれ選手はお互いを、監督を支え、いまこそ全力を出さなくてはならないんだ。軌道修正は必ずできる」

一部のタブロイド紙が、“反ジョゼ・モウリーニョ派の急先鋒”に位置づけていたセスクが、指揮官に対する信頼を明らかにした。賢明な読者のみなさんであれば、タブロイド紙が発する情報の背後に見え隠れするリテラシーを読み解いていたに違いないが、モウリーニョはメディアの主人公になりやすい。

ブラニスラフ・イヴァノビッチの不振は、恋仲にあったエヴァ・カルネイロさんが、モウリーニョとの確執で退団したことに起因する精神的ダメージ、との報道もあった。しかし、ドクター・カルネイロは11月12日、探検家のジェイソン・デ・カートレット氏と結婚している。

また、フロントが全面支援を約束した日から解雇されるまでの例を2~3紐解き、モウリーニョのファイナルデイを企画したメディアもあったが、ややこじつけが過ぎる。何かと攻撃的なモウリーニョを、担当編集者がギャフンといわせたかっただけかもしれない。

“オレたちは信じてる!” 轟くモウリーニョチャント

解任された監督たちとモウリーニョの決定的な違いは実績だ。今シーズンこそ不振を極めているが、第一期政権を含めたプレミアリーグの通算成績(昨シーズンまで)は195戦136勝40分19敗。勝率は約7割にもおよぶ。彼の後任が務まる人間は在野に見当たらず、ジョゼップ・グアルディオラやディエゴ・シメオネを引き抜けるはずもない。だからこそ、オーナーのロマン・アブラモビッチ氏はモウリーニョを信頼し、来年1月の市場で積極的な投資を約束したのだろう。

ラダメル・ファルカオ、アブドゥル・ラーマン・ババ、パピ・ジロボジは放出濃厚。代わって、けがに強いポストワーカー、走れるFW、総合力の高いサイドバックがリストアップされたとも伝えられている。

そしてモウリーニョの“ストロンゲストポイント”は、サポーターの熱烈な支持だ。

「 ジョゼ・モウリーニョ、ジョゼ・モウリーニョ」

ジュゼッペ・ヴェルディが作曲したオペラ、リゴレット「女心の唄」のメロディに合わせ、スタンフォード・ブリッジにモウリーニョを称えるチャントが轟く。彼らは分かっている。チェルシーを世界の強豪に導いてくれたのはだれなのか。カルロ・アンチェロッティには感謝しているし、戻ってくるのなら感謝はするけれど、モウリーニョのような刺激は得られない。

彼が発する大言壮語や芝居じみた仕草、警句の連発がチームを鼓舞する演技の一環だと分かっているからこそ、チェルシーのサポーターはモウリーニョに酔いしれる。そう、彼は稀代の名将にして、なおかつ名優なのだ。刺激的なステージを、少しでも長く楽しみたいものだ。

文/粕谷 秀樹
theWORLD168号 11月23日配信の記事より転載

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.291 究極・三つ巴戦線

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:コラム

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ