[ユーロ2016でわかる欧州新勢力図 1]小国の躍進光ったEURO、20か国の本大会出場が決定

強国が順当に勝ち抜くなか、オランダが3位にもなれず

グループAでは予選最大の波乱があった。ブラジルW杯で3位になったオランダが安定感のない戦いを続け、チェコ、アイスランド、トルコに押し出されて4位となり、本大会出場を逃している。W杯後にファンハールからヒディンクへと引き継ぎが行なわれたが、14年9月9日のチェコとのアウェイゲームに1-2で競り負けるなど、悪い予兆は初戦からあった。その後もリズムに乗れず、試合を重ねてもなかなか光明が見えなかった。

15年6月にはヒディンクからダニー・ブリントへと指揮官を代えたが、ときすでに遅し。短期間で巻き返すことはできず、予選を通じて勝利したのはカザフスタン、ラトビアと戦った4試合のみ。つまり、オランダは4勝しか挙げることができず、上位国との戦いは1分け5敗だった。これでは、予選突破は不可能である。

グループBではビルモッツが率いるベルギーが力強さを発揮し、首位通過でユーロ2000以来の本大会出場を決めている。アザール、デブライネ、メルテンスなど技巧派が揃うオフェンスはスピードとアイデアがあり、パスワークでも個人の力でも得点できる。また、高さ&強さがあり、技術力も高いフェライニという万能の大型アタッカーもいる。ベルギーの好調さは数字に表われており、総得点24はポーランド、イングランドに続いて多い。さらには、得失点差+19もイングランド、スペインに次いで3番目の数字で、攻守のバランスが取れていることがわかる。とどめは11月に発表されるFIFAランキングで、1位になることが決定している。もちろん、史上初の快挙で、ベルギー・サッカー界はいま充実のときを迎えている。
ベイルやラムジーを擁するウェールズも良い流れに乗っている。長く国際舞台から遠ざかっていたが、15年10月10日のボスニア・ヘルツェゴビナとのアウェイゲームに敗れるまで黒星がなかった。そして、この一戦に敗れたものの同日に順位を争っていたイスラエルも敗れたことで、初の本大会出場が決定している。負けたのに、良いニュースが入ってきた。こうした幸運があるウェールズは、本大会でも波乱を巻き起こすかもしれない。

グループCは順当な結果に終わっている。デル・ボスケのもと一貫した強化を続けるスペインは予選を通じて抜群の安定感を発揮した。チーム最多の5得点を上げたパコなど、ブラジルW杯後に新戦力も台頭している。ブラジルW杯は不本意な結果に終わったが、前回(12年)、前々回(08年)のユーロを制しており、前人未到の3連覇を目指す大会になる。一時期の勢いはないかもしれないが、各選手が欧州の一線級のクラブで活躍している。スペインはやはり侮れない。本大会でも上位に進出するのは間違いない。

世界王者ドイツが苦しむ。北アイルランドは初出場

グループDは最終戦まで首位通過が決まらない大混戦となった。当初はブラジルW杯を制したドイツが快適なクルーズを楽しむと考えられていた。ラーム、クローゼ、メルテザッカーが代表から引退したものの、最終ラインから前線まで良質な若手が多く、大きな戦力ダウンはないと思われていた。指揮官もレーブのままで戦うスタイルにも変更はなかったが、意外な苦戦を強いられることとなった。

なぜドイツが苦しんだか? 同グループの他国は、堅守速攻を徹底していた。この相手に対して、ボールをキープするものの効果的に崩せず、逆にカウンターから失点するケースが目立った。ジョージアをホームに迎えた最終戦もまさにそんな展開となり、前半を0-0で折り返した。そして、50分にミュラーがPKを決めて先制点を奪ったが、直後の53分にカウンターから同点とされている。その後に交代出場したクルーゼが決勝点を奪って2-1で競り勝ったが、とても快勝と呼べる内容ではなかった。

予選を見る限り、ドイツは本大会までに前線の真ん中でプレイするフィニッシャーを見つけないといけない。ミュラー、シュールレ、ロイス、ゲッツェ、ポドルスキ、ヘアマンなどはみなサイドで能力を発揮する選手だ。若手で適任者が見つからない場合は、昨季ブンデスリーガで得点王に輝いた34歳の大ベテラン、マイヤーの招集もあるかもしれない。

グループEでは苦戦が予想されたイングランドが下馬評を覆す快進撃をみせ、無敗で首位通過を果たした。この勢いが本物なのか、対戦相手との相性によるものだったのかは今後に明らかになる。いずれにせよ、ブラジルW杯で惨敗した“母国”の復活はサッカー界にとってポジティブな話題だといえる。ホスト国のフランスには、ドーバー海峡を渡って大勢のイングランド・サポーターが駆けつけるだろう。その光景を想像しただけで、いまから本大会が楽しみになってくる。

グループFは北アイルランド、ルーマニア、ハンガリーの三つ巴の争いとなり、最終戦でフィンランドとのアウェイゲームに1-1で引き分けた北アイルランドが勝点1差でルーマニアを上回り、念願だった本大会への初出場を決めている。原動力となったのはノリッジでプレイする長身ストライカーのラファーティで、9試合出場で7得点をマーク。これは、ルーニー、ジェコ、ベイルなどと並ぶゴール数で、予選の得点ランク5位タイの数字となっている。

この北アイルランドとともに本大会出場を決めたルーマニアは、10試合を戦ってわずか2失点と堅守を誇っている。指揮官を務めるのは経験豊富なヨルダネスクで、14年から3度目となる代表監督を務めている。ナポリでプレイするキリケシュを中心に各選手が粘り強い守備をみせるのが特徴で、2位通過ではあるものの予選では5勝5分けと無敗だった。負けなしで本大会へ挑むのは、ルーマニア、イングランド、イタリア、オーストリアの4か国のみとなっている。

アルバニアの夢が叶う。同国史上初の大舞台へ

グループGを首位通過したオーストリアは、初戦だった14年9月8日のスウェーデンとのホームゲームに1-1で引き分けたものの、続くモルドバ、モンテネグロとの連戦に1点差で勝利を収め、徐々に調子を上げていった。2勝1分けで迎えた前半戦最大のヤマ場だったロシア戦にも1-0で競り勝つと、選手たちが自信を持ってプレイするようになった。

結局、初戦に引き分けたあとは9連勝と完璧な成績で本大会への出場権を手にした。圧巻だったのは15年9月8日のスウェーデンとのアウェイゲームで、立ち上がり9分にアラバがPKを決めてリードを奪うと、カウンターからハルニクが2点、ヤンコが1点を追加し、4点をリードしてみせた。ロスタイムにイブラヒモビッチに1点を返されたが、オーストリアの実力を世界に発信する一戦となった。

グループHからはイタリア、クロアチアが順当に勝ち上がっている。イタリアは3連勝のあと3連続引き分けで停滞する時期があったが、終盤戦に向けてもう一度気合いを入れ直し、見事に4連勝で締めくくっている。国際大会でのイタリアの勝負強さは、いまさら説明するまでもない。国内では代表チームの人気低下が指摘されているが、大舞台での活躍がそうした懸念を払拭すると彼らは知っている。期待されていないときのイタリアが、過去にどんな成績を残してきたか……。本大会では怖い存在になる。

グループIでは大きな波乱があった。ポルトガルの本大会出場は予想されていたが、国際大会の経験が皆無のアルバニアは4位や5位で予選を終えると考えられていた。実際はデンマーク、セルビアを押さえて2位に食い込み、史上初となるユーロ出場権を獲得する快挙を達成してみせた。

「われわれは母国や海外で暮らすアルバニアの国民を幸せにした。これは奇跡であり、私の人生でもっともうれしい出来事だ」

チームを率いるイタリア人のデ・ビアージは、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』にそうコメントしている。かつて、ユーロでは下馬評の低かったチェコが決勝に進出したり、ギリシャが優勝したりしている。本大会でアルバニアが上位に進出しても、なんの不思議もない。予選を突破した時点で、その実力があることを証明しているのだから。

文/飯塚 健司
theWORLD167号 10月23日配信の記事より転載

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